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「やぶ医者」の語源 実は「名医」

 一体、いつごろからでしょうか? 腕の悪い医師のことを「やぶ医者」と呼ぶようにすり込まれたのは。
 兵庫県北部にある養父市。完全な難読地名です。「ようふ」でも「ようちち」でもなく、「やぶ」と読みます。私ことド・ローカルの生まれ故郷は、養父市に隣接する朝来市ですので、子どもの頃から苦労することなく「やぶ」と読んできました。しかし、やぶ医者の語源がこの地にあったとは知りませんでした。

養父と書いて「やぶ」と読む難読地名

 調べますと、江戸時代の俳人森川許六(きょりく)の俳文集「風俗文選」にはその由来に関するこんな記述があります。
 「養父の名医が死にそうな病人を治すほどの治療をすることもあり、評判が広がった」
 「次第に技量のない医師が名医をまねて『養父医者』と名乗るようになったことから、下手な医師を指すようになった」

 「やぶ医者」の語源は、養父にいた名医だった―との説にちなみ、養父市は2014年に、地域医療に貢献した医師を顕彰する「やぶ医者大賞」を創設。へき地での医師確保や若手医師の育成に向けた取り組みを続けた医師などを毎年2人選び、賞状や奨励金50万円などを贈っています。


やぶ医者大賞の表彰式


 やぶ医者大賞は、今年で9回目を迎えました。受賞した18人の功績をまとめてみました。

(注)年齢、肩書きは受賞当時
国家戦略の農業特区にも指定されている養父市

 神戸新聞1面のコラム「正平調」でも、やぶ医者大賞についてこう触れています。

 「芸術は長く、人生は短し」。この言葉は古代ギリシャの医師、ヒポクラテスが語った「医術を極めるには人生は短すぎる」が転じたものという◆精神科医のなだいなださんはそれを〝やぶ医者の思想〟と名づけた。自分の技量を過信せず、まだまだ未熟だ、「やぶ」だ、ということを忘れずに患者と向き合い、研さんを積む。すなわちこれ名医といえよう◆養父市が、その名もユニークな「やぶ医者大賞」を設けて6年目になる。山あいや離島といったへき地医療に尽力する若手医師をたたえるもので、今年は熊本県と三重県の2人が選ばれたと日曜の記事にあった◆そもそも「やぶ医者」とは養父に昔いた名医のことを指すそうな。重い病もたちどころに治して評判が広がり、腕の悪い医者まで「養父医者」を名乗ったことから「やぶ」が「へた」の意になってしまったとか◆認知症の人が集うカフェを設けたり、お年寄りが漢字の書き取りなどをする「学校」を開いたり、と受賞者の紹介にある。ともに笑って泣いて。病というより人と向き合い、暮らしに寄り添う毎日が目に浮かぶ◆ヒポクラテスは言ったそうだ。「患者を治した」のではなく「患者が治った」と。人間の奥底にある生きる力を引きだすのもまた名医なのだろう。 

(2019/7/5朝刊から)

 過去9回の受賞者の功績と正平調の内容を見比べて、妙に腹落ちするのは私だけでしょうか。
 名医とは、人と向き合い、暮らしに寄り添う医者。そして、人間の奥底にある生きる力を引き出す医者。
 やぶ医者って奥深い。

<ド・ローカル>
1993年入社。県外の人からは「ようふ市」「ようちち市」など、ほぼ誤読される養父市。この難読ぶりを街づくりに生かせないかと、かって「なにかと読めないまち養父市キャンペーン」と銘打ち、国の緊急経済対策を活用する事業をしたこともありました。地名が「読めない」ばかりでなく、「どんな事業に挑戦するかも先が読めない」事業でした(笑)

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