「かいもーーん」の掛け声に合わせ、朱色の門が開く。待ち構えていたカメラマンのフラッシュが一斉に光る。「うおおおおおーーっ」という雄たけびとともに、男たちが猛然と走り出し、地響きが石畳に広がる。
えべっさんの総本社、西宮神社(兵庫県西宮市)で催される新春恒例「開門神事福男選び」のスタート風景です。
1月10日午前6時、夜明け前の薄暗い境内を駆け抜ける人たちは、おしなべてジャージーやスポーツウェア姿。一般的な参拝者のいでたちとは明らかに異なり、どこからどう見てもランナーです。神社側は、かたくなに「神事です」と主張しますが、〝福男レース〟と呼ばれるのも合点がいくというものです。
新型コロナウイルスの影響で、昨年に続いて中止となったこの行事。今回は、記者シャープが、過去のトラブルや由緒などを過去記事からひもときます。
記者が挑戦した「福男選び」の動画はこちら
意外と浅かった!? 開門「神事」の歴史は平成期から
開門神事の歴史をさかのぼっていくと、最後の権宮司のコメント「思いやりにあふれた行事」が、ずいぶんと示唆的だなあと感じずにはいられないトラブルに行き着きます。
2004年に起こった、「そこまでやるか」と思わせるような事態を当時の記事から振り返ってみましょう。
勝負にこだわるあまり… 露骨な妨害行為に非難殺到
「事前の場所取りや直前の押し合いなど、走りの速さだけで決まらないのも魅力」。記事後段に出てくる「参拝者」のこのコメント一つとっても、何らかのスポーツの受け止めのようで、神事のことを語っているとはとても思えません。実際、記事中には「レース」「競技会」などの文言が並んでおり、起こるべくして起こったトラブルだったのでしょう。
この一件によって波紋が広がり、翌年からはスタート位置の抽選制が導入されます。門の前にいち早く陣取っても、くじで当たらなければ先頭グループに入れないようになり、集団での妨害行為はほぼ不可能になりました。
戦前に君臨した絶対王者、田中太一さん
競技性にばかり注目が集まる開門神事ですが、その記録性もなかなかのものです。1921(大正10)年以降、1世紀にわたる歴代の福男の名前を西宮神社が記録しており、ウェブサイトで公開しているのです。
それによれば、田中太一さんという人物が15連覇を達成し、1年置いてさらに2連覇、その翌年も三番福という、とてつもない健脚ぶりを発揮していることが分かります。
今と違って競技性は薄く、のどかな雰囲気ではあったのでしょうが、それにしてもすごい。田中太一さんがどんな人だったのか、神戸新聞の過去記事では、残念ながら出てきませんでした……。
ちなみにこのサイト、福男の名前のほか、開門前に待機していた人数やルールの変更などが全て網羅されており、神事の趨勢が一目で分かるスグレモノです。興味がある方は、ぜひ一度、ご覧になってみてください。
最後に、新型コロナで中止となった昨年の開門神事の記事を紹介します。整然と並んで参道を進む写真に違和感を感じてしまうのは、〝レース〟が当たり前の光景として焼き付いているからでしょうか。
<シャープ>
2006年に入社し、西宮神社近くの阪神総局に配属された。新人記者の通過儀礼として翌07年の開門神事に参加したが、スタート直後にあえなく転倒。後続からの猛烈な圧に押し込まれて呼吸ができなくなり、かなりの恐怖心を抱いた。その体験をルポ原稿にまとめたのだが、あえなくボツになるという、まさに踏んだり蹴ったりの一日だった。
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