恩人との再会やボランティア支援、遺族との出会い…。読者と読者を取り持った記事
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恩人との再会やボランティア支援、遺族との出会い…。読者と読者を取り持った記事

記事を掲載した後の反響を、取材先からうかがうことがあります。取り上げた個展が盛況だったと聞けば、創作に関わったわけでもないのに、なんとなく誇らしく感じます。記事がきっかけで予想外の展開となって、慌てて「続報」を用意することもあります。拡散力ではSNSに及ばないと言われる新聞ですが、原稿に込めたメッセージが「届いた」と感じられる3話を、播州人3号が紹介します。

まずは、運命の2人の再会を記事が取り持った話です。

増水した川に転落、差し出された手につかまり… 命の恩人尽きぬ感謝

   (2020年4月30日付朝刊より)

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 川に転落した男性が救ってくれた人を捜している―との記事を26日付の神戸新聞姫路版に掲載したところ、その日のうちに見つかった。恩人は、散歩で通り掛かった会社員。濁流の中、茂みをつかんでもがいていた男性を引っ張り上げたという。「あなたがいなければ助かっていなかった」。現場で恩人に会った男性は心からの感謝を伝えた。
 転落したのは姫路市広畑区の浜田利幸さん(76)。18日、日課の散歩で夢前川の京見橋付近を歩いていた際に、前夜の雨で増水した川が気になってのぞき込み、足を滑らせた。
 そこへ通り掛かったのが、タクシー会社に勤める吉良広行さん(69)だった。気付いたときには、浜田さんは首のあたりまで漬かっていた。茂みにつかまってはいるが、流れが速い。助けを呼ぶ声も出せない様子に、吉良さんは迷わず駆け寄った。
 上半身の服を脱ぐ。「手だけをこっちに伸ばして」。浜田さんが差し出してきた手をどうにか握ると、無我夢中で引き上げた。滑り落ちた場所の靴跡から考えると、2~3メートルは流されていたとみられる。吉良さんは「危機一髪だった」と切迫した状況を振り返った。
 互いに名前を伝え、吉良さんは浜田さんの無事を確認して別れた。
 ただ、浜田さんは18年前の脳症の後遺症で、前日の出来事も曖昧になることがある。「記憶が少しでも残っているうちに」と、翌日から妻と2人で恩人を探し始めた。が、手掛かりは少なく、本紙を通じて情報提供を呼び掛けた。
 記事が掲載された26日朝、本紙姫路本社に「救ったのは私の近隣の男性では」との電話があり、続いて吉良さん本人からも連絡があった。現場で会った浜田さん夫婦は「本当にありがとうございました」と繰り返し感謝。お礼の花束を受け取った吉良さんは「元気な姿で一安心です」と話していた。      

まさに危機一髪の救出です。
命の恩人を捜す記事は、こんなふうに掲載されました。

夢前川に転落 記憶障害の76歳男性 救助した恩人探す 夫婦で「感謝伝えたい」 

 姫路市広畑区の夢前川京見橋付近で今月18日、近くの男性(76)が川に転落した。前夜からの雨で川は増水していたが、通り掛かった男性に引き上げられ事なきを得た。救助された男性には記憶が曖昧になる障害があり、妻とともに「感謝を伝えたい」と恩人を探している。
 男性が転落したのは午前10時半ごろ。日課の散歩で、京見橋南側の右岸を歩いている途中だった。増水した川が気になり、のぞき込んだ際に足を滑らせてしまったという。
 この男性によると、引き上げてくれたのは「60~70代の男性」。すぐに引き上げられたため、胸下まで漬かりつつも脚に擦り傷ができる程度で済んだ。
 男性は18年前の脳症による後遺症で、前日の出来事を思い出せなくなることがある。助けてもらったことは数日が過ぎても覚えていたが、尋ねたはずの恩人の名前がはっきりとしない。お礼を伝えようと翌日以降、同じ時間帯に転落現場付近を通り掛かった人たちに妻と2人で声を掛けて回っているが、今のところ該当者や目撃者は見つかっていない。
 2人は「助けてもらえなければ、遠くまで流されていたかもしれない。どうにか助けてくれた人を見つけたい」とし、情報提供を呼び掛けている。

   (2020年4月26日付朝刊から)

何とかして見つけ出したいという夫婦の熱い思いが記事から伝わります。そのためでしょうか、反応は掲載当日にありました。

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書いた記事がどれぐらい読まれたか。
新聞の発行部数なら分かりますが、記事がだれに見られたかを測るのは容易ではありません。そんな中で、今回は間違いなく「届いた」と感じられるケースですね。

新聞社、新聞記者というと、どこか取っつきにくいイメージがあるかもしれませんが、紙面は読者の皆さんとともにつくっています。

神戸新聞では皆さんの声を取材に生かす双方向型報道「スクープラボ」を始めています。こちらもぜひご利用ください。

続いては、読者の応援の気持ちが毛糸になった話題です。

毛糸の寄付 どっさり50箱超 ボランティア団体 本紙掲載後、80人から 

  (2021年7月7日付朝刊より)

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 膝掛けを手編みして高齢者施設に贈っているボランティア団体「チーム隠居部屋」(姫路市)に、材料となる毛糸が続々と寄せられている。きっかけは6月22日付の本紙記事。不足しがちな毛糸を確保しようと、「家庭に眠っているものがあれば寄付してほしい」と呼び掛けたところ、播磨各地から支援が届き始めている。
 同団体によると、これまでに約80人から協力の申し出があり、中には知人を通じて取り組みを知ったという県外在住者も。一時は電話対応が追いつかない状態となった。当初は受け取りにも出向いていたが、今後は郵送(送料は発送者負担)か持参に切り替えて募集を続ける。
 活動拠点となっている姫路市山野井町の作業場には既に50箱以上の段ボールや紙袋が集まり、荷ほどきや仕分け作業を進めている。メンバーの女性(66)は「ここまで集まるとは予想外。応援の手紙が添えられている寄付もあり、これからも頑張ろうという気持ちになった」と笑顔を見せる。

寄付を募る記事は、それほど大きな扱いではありませんでしたが、気持ちはしっかりと伝わったようです。

高齢者をだます特殊詐欺など「世知辛い」と感じる事件が相次ぎ、新型コロナの感染拡大が人間関係をさらに希薄にするのではないかと心配されます。けれど、こんな記事を目にすれば、世の中捨てたもんじゃないという気持ちになりませんか。

▢ ■ ▢ ■ ▢ ■ ▢

最後は播州人3号が取材した話です。10年も前ですが、当時のことをはっきりと覚えています。

市民センターの改修に伴い、中にあった図書コーナーの閉鎖が決まりました。開設に関わった姫路市職員のエピソードを聞き、何とか東北支援につながればと原稿にしました。

姫路市職員の遺志継ぐ蔵書 児童書70箱分 東北へ

 事故で亡くなった姫路市職員の遺志を継いで生まれた「高井児童文庫」で、運営に携わったボランティアらが蔵書を東日本大震災の被災地へと贈る計画を進めている。かつて図書室のない子どもたちに読書の楽しさを伝えた児童書は、津波で本を失った東北の図書館に活躍の場を移す。
 高井児童文庫は32年前に交通事故で亡くなった元市広報課長、高井清裕さん=当時(47)=の遺族が図書を寄贈し、1979年6月に誕生した。本好きだった高井さんは西市民センター(姫路市飾西)に図書室がないことを知り、蔵書を贈る計画を生前に立てていた。
 その後、遺族や運営ボランティアらがバザーの売り上げなどで本を買い足し、毎週土曜日に読み聞かせ会を開くなどし、貸し出しコーナーには子どもたちの列ができた。
 利用が低迷し、約10年前に貸し出しを休止。本はそのままセンターのロビーに並べていたが、改修に伴って撤去が決まった。住民らはほかの施設での活用を市に要望、東日本大震災の被災地が図書館などへの寄付を募っていることを知り寄贈を決めた。
 寄贈されるのは段ボール約100箱の蔵書のうち児童書を中心にした約70箱分で、岩手県の遠野文化研究センターを通じて被災した図書館や学校図書室で活用する予定。残る蔵書もほかの施設での活用を検討する。
 「どの本も思い入れのある本ばかり。東北の子どもたちを元気づけてほしい」と運営ボランティアを務めた女性。本の運送にかかる費用約10万円をボランティア仲間に呼び掛けている。また早期に届けるため、運送を支援してくれるグループや会社を探している。

   (2011年9月9日夕刊より)

小さな図書コーナーに、そんな経緯があったのかと紙面で紹介すると、すぐに協力の申し出がありました。

連絡は予想外の人からでした。

 東日本大震災 元姫路市職員の蔵書70箱分 兄の遺志 弟が岩手へ 報道知り運送に協力高井德夫さんら3人 

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 交通事故で亡くなった元姫路市広報課長高井清裕さん=当時(47)=の遺志を継ぎ、32年前に同市西市民センター(同市飾西)で誕生した高井児童文庫。新たな活躍の場として東日本大震災の被災地に蔵書を贈る計画を9日の本紙夕刊で紹介したところ、高井さんの弟德夫さん(77)=姫路市木場=らから運送の申し出があり、段ボール約70箱分が22日、発送された。3人の弟たちは「本好きだった兄の思いが詰まった本が、被災地の子どもたちを元気づけてくれるはず」と期待する。
 同文庫は、地元に図書室のないことを心配していた高井さんの遺志を受け、遺族が図書を寄贈し、1979年6月に設立された。子ども向けに貸し出され、ボランティアが読み聞かせ会を開いてきたが、10年ほど前に貸し出しを休止。センターの改修で移設が必要となり、本を必要とする東北での活用が決まった。
 高井さんは7人兄弟の三男。亡くなって32年が経過するため、親族らも文庫の現状を知らなかったという。本の運送支援を呼び掛けた記事を、四男德夫さんが見てボランティアに連絡。兄弟で相談し、運送業を営む五男康裕さん(71)がトラックを手配した。
 この日は、德夫さんと、六男英信さん(69)がセンターを訪れ、段ボールの積み込み作業を見守った。「本が好きで、弓道や書道もした自慢の兄でした」と英信さん。德夫さんは「兄も子を残して亡くなった。親を亡くした東北の子どもたちを元気づけてほしい」と話した。
 本は、岩手県の遠野文化研究センターを通じて図書館や学校図書室で活用する。ボランティアに寄せられた運送資金も同センターに贈り、新刊の購入費に充てる。
 運営ボランティアの女性は「高井さんの心が通じた。被災地の子どもにも読書の楽しみを伝えてほしい」と話す。                     

  (2011年9月23日付朝刊より)

記事を書く際、遺族について市役所などに尋ねました。高井さんが事故で亡くなられたことは確認できましたが、それ以外の手がかりはつかめませんでした。それが紙面に掲載後、まさか弟たちとつながるとは―。

東北に向けて本を積み込む作業に、すがすがしい気分でカメラを向けました。

▢ ■ ▢ ■ ▢ ■ ▢

紹介したのは播州(姫路)の記事ばかりですが、ほかの地域でも紙面掲載後に同じような反響がたびたび寄せられています。

私たちは公正に伝え、人をつなぎ、くらしの充実と地域の発展につくす

これが神戸新聞の社是です。
記事や紙面を通じて人をつなげることは、私たちの重要な目標の一つなのです。

<播州人3号>
1997年入社。現場を回っていたころは見出しの大きさや記事の扱いばかり気にしてましたが、最近は記事の中のコメント部分をじっくり読むことが多くなりました。「なるほど」「さぞかし」と感じる機会がかなりあります。

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