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サンタの街の今

 大阪、神戸などのベッドタウンとして開発が進み、1996年まで10年連続で「人口増加率日本一」を誇った兵庫県三田市。2011年から人口減少に転じ、昨年8月には人口が11万人を割り込むなど、急激な高齢化が懸念されます。
 しかし、人口減に手をこまねいていたわけではありません。2015年からは、毎年12月に、三田市=「サンタ市」と名乗り、「サンタ×(クロス)三田」プロジェクトをスタートさせました。
 何やら最近は「ビールの街」としてのPRも始めています。ド・ローカルが、街のブランディング化を進め、生き残りをかける三田市を紹介します。

「ミタ」じゃないよ「サンダ」だよ 誤読解消へ「サンタ」とコラボ

毎年12月に登場するイルミネーション

 〝ミタ〟じゃない、〝サンダ〟だ―。東京一極集中が進むほどに幅を利かす東京都港区田(みた)。対するわれらが兵庫県の田(さんだ)市は、知名度不足に肩身を狭くする。編み出した対抗策は、神頼みならぬ「サンタクロース頼み」。12月、田市は「サンタ市」になる。読みが定着するなら、それも一つの地方創生。市内には今、サン〝ダ〟クロースがあふれている。
 「もしもし、ミタ市さん? サンダ牛を申し込みたいんですけど」。ふるさと納税関連で田市役所にかかってくる電話。担当職員はため息まじりに「牛肉はサンダ。何で市はミタなのか…」。
 東京の田、田佳子さんや田明さんら芸能人。市役所や市民の間では「全国区はミタですね」と、以前から〝サンダあるあるネタ〟の一つに数えられてきた。
 だが、笑ってばかりもいられなくなった。少子高齢化と人口減少の波は田市をも襲う。人口増加率で1996年まで10年連続日本一を誇った同市。今は県内で最も高齢化率が低い〝若いまち〟だが、今後30年で見込まれる高齢者増加率は県内トップ。全国でも屈指の伸び率だ。
 東京以外、どこもが地方創生。田市も切実に「選ばれるまち」を目指す。
 若い世代の定住促進、交流人口の増加のため、同市が今年から始めたのが「サンタ×(クロス)田」プロジェクト。まずは読みをPRするシティーセールス戦略だ。市民と市職員の有志が企画を練り上げた。
 県立有馬富士公園に12月5日、サンタ帽姿の約180人が集合した。大きな輪になり、歌いながらプレゼント交換。15日には市庁舎ロビーに、来庁者が飾り付けできる高さ約4メートルのモミの木「サンダツリー」が登場する。
 また、同市観光協会はサンタ姿の歴史ガイドによる史跡ツアーを計画。市内の飲食店でもサンタ姿の客に特別サービスを用意する。
 今後、こうした取り組みをインターネットで配信するほか、市外の人も参加できるイベントを検討する。
 サンタクロースのふるさとといえばフィンランド。冬には県内有数の厳寒にさらされる田。森哲男市長は「自然豊かな北欧の福祉大国にならい、思い切って『関西のフィンランド』を目指したい」と意気込んでいる。

2015年12月12日夕刊
市職員はクリスマス限定の「サンタ×三田」名刺を作ってPR=三田市

「うどん県」香川、難読PR「宍粟」 選ばれるまち狙い 妙案競う


 まちの魅力を創造・発信するシティーセールス(シティープロモーション)に取り組む自治体は増えている。大河ドラマを活用するなど受け身的だった広報戦略は近年、攻めの姿勢に転じている。
 うどん県に改名します―。人気俳優を起用し、話題を呼んだ香川県のプロモーションビデオ。2011年秋の公開後、サーバーが一時ダウンするほどアクセスが殺到した。反発もあったが、多くのメディアが取り上げ、計り知れない広告効果を挙げた。その後、全国で〝改名ブーム〟が巻き起こった。
 兵庫県でも「ようふ」などと誤読される養父(やぶ)市が面白い読み間違いを募る企画を実施。ユニーク地名を集めた本で西日本一の「読みにくい地名」に選ばれた宍粟(しそう)市も、難読を逆手に取ったCMコンテストを開き、知名度アップに励む。
 取り組みの背景にあるのは、東京一極集中が加速する中、人口減や高齢化で地域の活力が失われることへの危機感だ。生き残りを懸け、市民や企業、観光客に「選ばれるまち」となるための競争は激しさを増す。
 売りは名所や特産品から住環境、まちのイメージまで千差万別。うどん県ブームの仕掛け人で、佐世保バーガーやゆるキャラ「ひこにゃん」も手がけたPRプロデューサー殿村美樹さんは「地元の魅力を見つめ直し、一点集中で光を当てることが大切」と指摘する。

2015年12月12日夕刊

 「SANTA CITY(サンタシティー)」は年々、広がりを見せ、クリスマスまでのイベント数は30近くに及んでいます。神戸電鉄は三田駅に「SANTA駅」の看板を掲げました。駅周辺のイルミネーションは1万2千個の発光ダイオード(LED)で照らされます。さらに、関西学院大学神戸田キャンパス(田市学園2)では学生交流拠点「アカデミックコモンズ」前にある高さ約9メートルのヒマラヤスギのクリスマスツリーが鮮やかな光を放ちます。

神戸電鉄三田駅が「SANTA駅」に
駅前駅前周辺のイルミネーション
関西学院大学の2本のクリスマスツリー

関西のシベリヤ? いや目指すは「関西のフィンランド」

 三田の冬は寒いんです。2021年1月9日には最低気温が氷点下10・1度を記録しており、ネット上では「関西のシベリア」「兵庫のチベット」とも揶揄(やゆ)されています。しかし、市は「目指すのは、サンタの故郷であるフィンランド」と揺るぎません。
 フィンランドは34歳(当時)の女性首相が誕生するなど、男女平等や福祉、教育の先進的な国としても知られており、三田市の担当者は「市の目指す方向と一致しており、姉妹都市提携を検討していたこともある」と口にします。森哲男市長は「東京五輪の際、フィンランド代表のキャンプ地に手を挙げることを検討しましたが、財政面で職員から猛反対されました」と苦笑い。現在は新型コロナウイルスの感染拡大で相手探しを控えており、森市長は「まずは市政で福祉や教育、子育て、ジェンダーの取り組みを進め、姉妹都市提携にふさわしいまちづくりをやっていきたい」と話しています。

次はビールの街 目指すの?

11月3日に実施される三田ビール検定
3年前のビール検定の様子

 幕末、日本人で初めてビールを醸造した川本幸民(1810~71年)。田出身の蘭(らん)学者にちなみ、ビールの歴史や醸造の仕組みなどを問うご当地検定「田ビール検定」が11月3日、田市まちづくり協働センター(駅前町2)などで開かれる。新型コロナウイルスの影響で3年ぶりの開催となる。

 川本幸民は田藩の藩医の三男として生まれ、江戸で蘭学、医学、化学、物理学を学んだ。ビール醸造のほか、マッチの製造や銀板写真の撮影にも日本で初めて成功したとされ「近代日本の化学の祖」と呼ばれる。検定は田市が主催し、2017年度から開いている。
 事業全体や問題の監修は園田学園女子大名誉教授の田辺眞人さん、神戸学院大非常勤講師の谷口義子さんが行った。キリンビール神戸工場(神戸市北区)も協力している。
 問題は4択式で50問。ビール文化が15問、三田の歴史文化が15問。残りの20問はビールか田についての問題が選べる。検定時間は60分で、60%以上正解すると初級に合格となる。中級、上級、初段があり、各級を合格すれば次年度に上の級に挑戦できる。問題は全て同じで、飛び級はできない。
 合格者には合格証とバッジが贈られ、満点合格者には特製のビアマグが授与される。19年度は153人が受験し、合格者は初級51人、中級25人、上級70人だった。田市の担当者は「ビール文化を田のブランドとして発信し、市内外の多くの人に田の歴史や風土に触れてもらいたい」とする。
 書店などで公式テキスト(税込み550円)を販売。22年4月1日時点で20歳以上の人が参加でき、定員240人(先着順)。検定料3千円が必要(ペア、グループ割引あり)。市ホームページの申し込みフォームなどから7月15日~10月11日に応募。検定時に2点加算されるセミナーなど事前の催しもある。

2022年7月10日付朝刊


 サンタとはなかなか、考えたものです。日本で初めてビールを醸造した川本幸民の故郷が三田であることは、恥ずかしながら知りませんでしたが、検定に結びつける発想が、さすが三田市というところでしょうか?

<ド・ローカル>
1993年入社。今月、三田市役所を訪ねる機会がありました。担当者の名刺にあった「まちのブランド観光課」との記述に目がとまりました。全国各地で少子高齢化が進み、街が縮んでいく中、しっかりとした街のブランディングを行い、街の方向性を見据えていくことがとても大事です。三田市には、ブランディングを担う部署がすでにあったことに少し感動を覚えました。

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