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無用の長物か、超芸術か―。思わず足が止まった街の不思議なもの

記者が取材途中に出合った気になるものを紹介するコーナー「まちをあるけば」。2004年に地域のニュースを掲載する紙面で始まり、今も続いています。取り上げる話題は「ニュース」に限りません。それだけにセンスと文章力が問われます。今回は紙面に登場した「なんでここに?」なものを播州人3号が集めました。

まずは2階壁面にある出入り口です。

高すぎるドア 誰が出入り?
神戸・長田の銭湯

 ベランダもないのに民家2階にドアが! 「高すぎる」。屋内から勢いよくドアを開けると、下に落っこちそうだ。ちょうど同じ高さの標識が「人が出てきます」の図柄に見えてきた。
 実はこれ、神戸市長田区駒ケ林町2の銭湯「扇港湯」の側面。「なんでこんなところにドアがあるの? ってお客さんからもよく尋ねられる」と女将(78)。2階は住居で、建設時に設置された非常用ドアだという。
 「火事が起きたら縄ばしごをさっと降ろしてすっと逃げる」。とてもスムーズな説明だが、使用した経験はないという。
 改築後、古くなったはしごは捨て、ドアも封印した。もう人は出てきません。

(2018年12月5日付朝刊より)

下を向いて歩いていては気付きません。
たとえ気付いたとしても直接、理由を聞くことはないでしょう。
経緯を読めば納得です。重要な役割があったことが分かります。

次の「発見」も記者の目線がポイントです。

商圏も大きく? たか~い看板
神戸・中央区のコンビニ

 神戸市中央区の神戸中央郵便局の前で信号待ち。ふと見上げると、はるか頭上にコンビニ「ローソン」の看板があるではないか。普通に歩けば到底、視野に入らない。なぜこの高さに?
 ローソン広報室によると、看板は郵便局1階の店舗「JPローソン」のもの。看板は高さ約25メートルに設置されているという。
 高さの理由を尋ねると、「JR神戸駅からでも見えるように」とのこと。しかし、神戸駅からは約400メートルも離れているが…。半信半疑で駅の南口付近に立つと、確かに立ち並ぶビルや街路樹の隙間から看板は見えた。
 果たして、駅で看板を見て来店する人がいるのか。店員さんに効果を聞くと、「うーん、もっと手前にコンビニがありますからねえ」

(2017年8月16日付朝刊より)

ふと見上げた先に看板を見つけたときは、さぞ驚いたでしょう。

美しく時重ねる〝天国への階段〟
神戸・北区の林道

 神戸市北区道場町。車1台通るのがやっとの林道を抜けると、そこに、らせん階段があった。
 階段を上った先には何もない。山中の川べりから空中に伸びる、約3メートルの純粋階段だ。
 「不思議そうに見てる登山客に『天国への階段』と言うてやるんや」。近くで売店「やまびこ」を営む男性(80)が笑う。
 階段は、男性の父親が経営していたJR道場駅前の酒屋で、1階と屋上をつないでいたもの。店舗の改装で不要になり、売店を始めた時に移設したという。
 「父は生前、よく階段から周囲の自然を眺めていた。私もいつかここからあの世に行くのかもね」と男性が冗談交じりに話す。
 実際はさび付いて危険なため、今は利用禁止。こここそ、地上のパラダイス。

(2020年9月24日付朝刊より)

森のオブジェのようです。
「何のために?」。登山客が気にするのも分かります。
不思議な建造物は街中にもあります。

高級住宅街に「川のない橋」
芦屋

 橋の柱はたしかにあれど、川の流れはどこにも見えず。大邸宅を左右に連ねる、広い道路があるばかり。
 ここは芦屋の六麓荘。六甲山麓の数万坪を昭和初期に宅地開発。電気・水道・ガスを引き、道路は全面舗装した。造成時に出た御影石で、小川に「日の出橋」や「月見橋」など10の橋を架けたとされる。
 平成以降、芦屋市は別の排水路を整備し、橋は道路の一部と化した。小川を邸宅地の借景として楽しむ人のため、橋の下には配管が通るだけ。
 「橋のない川」ならぬ「川のない橋」とは! さすがは景観保全の街、芦屋。無用の長物じゃないかと、誤解してゴメン。

(2012年11月14日付朝刊より)

国内屈指の高級住宅街にある不思議な橋です。
文学作品のタイトルをさりげなく出したところにセンスが光ります。

次も橋の話題です。果たしてその用途は?

妖怪が潜む? 行き場ない橋
神戸・東灘

 神戸市東灘区の旧天神川に架かる奇妙なものを見つけた。マンションの壁面と駐車場の壁を結んでおり、形状は橋にも見えなくないが…。すぐ近くには1968年に架けられた「天神橋」がある。となると、この渡れない橋。誰が使うのだろう。
 周辺一帯はかつて酒蔵が立ち並んでいた。近くに倉庫を持つ会社社長(54)いわく、「子どもの頃は、とっくりを持った酒飲みの妖怪がうろうろしているって言われたなあ」。阪神・淡路大震災で酒蔵は姿を消し、かつての街並みを想像することは難しい。逢魔(おうま)が時、橋の下をのぞけば、妖怪を見ることができる…かも。

(2015年6月3日付朝刊より)

こちらは妖怪を登場させる展開です。
橋として使われた後、建物の改修などでその役割を終えたのでしょう。

次のマンホールも完成後に造られたようです。

ブロック塀破り開閉?
神戸・兵庫区

 神戸市兵庫区今出在家町一の駐車場。別の駐車場との境界のブロック塀から茶色のマンホールがのぞく。上からモルタルで塗り込めた形跡も。「ど根性マンホール」か?
 神戸市建設局によると、トイレの水洗化が始まった当初、複数戸が一つの排水管を共同利用する場合があり、所有者の境界線の勘違いでマンホールが隣地にまたぐこともあったとか。時代が流れ、敷地が駐車場になり「その名残では」。
 ただ、開けにくいマンホールは数多くあれど、「上に塀は見たことがない」といい、「詰まったとき、困りますよ」とチクリ。塀を造っても、足元のマンホールをお忘れなく。

(2008年7月9日付朝刊より)

点検も含め、これまで開ける必要はなかったのでしょうか。

「どうやって?」と思わず口にしてしまうビルも見つかりました。

幅はドア分 超縦長ビル
神戸・中央区

 神戸市中央区栄町通に奇妙に縦長のビルがある。間口はドアの幅だけ。1階のバーが閉店して以降、この界わいの“七不思議”の一つになっているとか。ふむ、探ってみるか。
 近くの店が、バーの元経営者をすぐに紹介してくれた。トアウエストで別のバーを営む男性(41)。訪ねると、あっさりと教えてくれた。
 ビルは戦後の混乱期に建てられ、台湾人女性が所有。男性は物置状態だったビルにガスや水道を通し、1993年にバーを開業。人気を集めたが、女性が亡くなり、遺族が財産放棄。家賃を払う先がなくなり、5年前に閉店したという。
 なるほど。しかし、こんなに簡単に謎が解けたら“七不思議”失格!

(2010年8月4日付朝刊より)

外観以上に、中の構造が気になります。

いずれも取材の合間に歩くだけでなく、取材先の情報も参考にしながら探したネタです。単なる紹介とせず、なんでそうなったのかの背景まで調べています。

作家の赤瀬川原平さんらによって広められ、無用の長物を見つけて報告する「超芸術トマソン」や「路上観察学」に似ていませんか。
面白がる記者の個性が記事にも反映されるせいでしょうか、キラリと光る原稿は若手に多い気がします。

<播州人3号>
1997年入社。街中の不思議なものを探し歩く人も紙面に登場します。10年ほど前に話を聞いた女性は、古い琺瑯(ホーロー)看板や「飛び出し坊や」の写真を撮り歩き、分類してホームページで紹介していました。「モノに出会い、その背後にいる人を感じられることが楽しい」と当時の紙面にあります。奥の深い世界ですね。

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