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新しい「主役」はシャチ!? リニューアルされる神戸・須磨海浜水族園

「スマスイ」の愛称で親しまれる「神戸市立須磨海浜水族園」が、老朽化に伴いリニューアルされます。計画の提案から整備、運営までを企業などが担う完全民営化です。2024年春のグランドオープン予定で、「海の王者」シャチが新たに登場し、全室オーシャンビューのホテルが建設されるなど西日本最大級の水族館を目指します。変革期に立つスマスイの歴史と今後について播州人3号が紹介します。

正式名称は水族ではなく、水族です。
神戸市須磨区の須磨海浜公園の一角にあり、関西有数の人気を誇る須磨海水浴場も近くにあります。

歴史は古く、ルーツは明治期にさかのぼります。
開業60周年を迎えた2017年の記事で振り返りましょう。

スマスイ起源は120年前
移転重ね現在〝5代目〟
「水族館発祥の地」神戸で歴史脈々

 10日に開業60周年を迎えた神戸市立須磨海浜水族園(同市須磨区若宮町1)。入園者数は60年で6200万人。世代を超えて愛される愛称「スマスイ」は老舗水族館として新たな一歩を踏み出す。実はこのスマスイ、神戸の水族館として5代目という。〝初代〟誕生は120年前。神戸が「国内の水族館発祥の地」との称号を持つ由縁だ。
 1897(明治30)年、神戸の和田岬で行われた「第2回水産博覧会」に合わせて「和楽園水族館」が生まれた。本格的なろ過槽設備を備えており、国内初の水族館として位置付けられている。
 初代は博覧会期間限定で、数カ月後に閉鎖されてしまったという。ところが再開を望む声が多く、1902(明治35)年、湊川神社の境内に建物ごと移転を果たす。2代目は「楠公さんの水族館」の愛称で約8年間親しまれたという。
 3代目は30(昭和5)年。「神戸海港博覧会」を記念して湊川公園内に開設されたが、第2次世界大戦の影響で閉鎖。建物も空襲によって焼失した。
 60年前にオープンした須磨水族館は4代目。77年には淡水魚の「ロングノーズガー」の繁殖に世界で初めて成功し、現在も成育の最長記録を更新している。87年5月にいったん閉館し、2カ月後に現在の水族園が5代目として再出発した。
 試練は95年の阪神・淡路大震災。施設の停電などで飼育魚の約半数が死亡、3カ月間の休業を余儀なくされた。発生直後は自主避難所や中学校の臨時教室としての役割も果たした。
 87~89年度に年間200万人を超えた入園者数だったが、レジャーの多様化や不況などで徐々に低迷。震災時は80万人程度まで落ち込んだ。
 市はてこ入れ策として、2010年度に指定管理者制度を導入。運営に民間のノウハウを導入し、人気は徐々に回復。新型インフルエンザ対策キャンペーンで夏季無料開放した11年度を除き、16年度は16年ぶりに120万人を突破。吉田裕之館長は「60年を節目に多くの親子連れが訪れ、海洋生物の保全や生態などを知ってもらいたい」と語った。

(2017年5月10日付朝刊より)
水量1200トンを誇る「波の大水槽」。サメやエイが優雅に泳ぐ(2021年2月撮影)
アマゾン館の水中トンネル。ピラルクなど巨大魚たちが頭上を悠々と泳ぐ(2021年2月撮影)

多彩な生き物の展示だけでなく、ユニークな催しでも来園者を楽しませてきました。

ほっこり 魚を観賞
スマスイ 冬恒例こたつ席

 須磨区若宮町1の須磨海浜水族園が、こたつで温まりながら優雅に泳ぐ魚の姿を眺める人気企画を、今年も実施している。カップルや家族連れが足や手を布団に入れ、ひとときのぬくもりを感じていた。
 こたつは2卓あり、長さ2・4メートルの木製。水族園は夏のイメージが強く冬は客足も遠のきがちだが、「寒くても快適に見てほしい」と、同園スタッフが6年前に考案したのが始まり。
 こたつの机や椅子は当時、同園の岩村文雄さん(47)らが1カ月かけて手作りした。布団は魚の柄をあしらったデザインで特注したという。より温かく感じてもらおうと、布団の生地は暖色系の赤色を選ぶなど、随所にこだわりを詰め込んだ。
 雨が降る中、校外学習で訪れた高校生(16)は「イルカショーを見て寒くなったけど、温かくてずっと入っていられる」と笑顔で話した。こたつは来年2月25日まで設置される。

(2019年12月18日付朝刊より)

砂浜へイルカ跳ぶ
神戸・須磨

 海水浴場の一角でバンドウイルカを飼育する須磨海浜水族園(神戸市須磨区)の社会実験「須磨ドルフィンコーストプロジェクト」のお披露目式が30日、須磨海岸で開かれた。2頭のイルカが海中から高くジャンプする姿に、詰めかけた市民ら約千人が歓声を上げた。
 2頭は6月13日、海の中を網で仕切った約9600平方メートルの飼育場所内のいけす(10メートル四方)に移され、浅瀬へ近寄る訓練などを重ねてきた。
 この日は同園のトレーナーの指示で2頭が勢いよくジャンプを繰り返した。小学生の子ども2人と訪れた会社員の男性(48)=同市須磨区=は「身近な自然の中で泳ぐイルカを見て、神戸の海は素晴らしいと実感した」と笑顔だった。

(2013年7月1日付朝刊より)

光のアート魚と共演
神戸・スマスイ、夏の延長開園

 夜の水族園を映像で彩る「IRODORI×ART(イロドリ・アート)」が、神戸市須磨区若宮町1の須磨海浜水族園で開かれている。高さ約16メートルの壁に、魚や貝、夏の花々が鮮やかに映し出され、親子連れが幻想的な空間を満喫した。
 同園は9月1日まで、閉園を午後9時に遅らせる。今年は「海のパレット」をテーマに、施設の外壁への映像投影「プロジェクションマッピング」を初めて催すほか、イルカと映像の共演などを展開する。
 エントランス近くの壁には、鮮やかな熱帯魚やクジラが泳ぐ様子が浮かび上がり、来場者は写真撮影を楽しんでいた。大阪市から家族で訪れた児童(9)は「暗い中にいろんな光と絵が出てくるのがきれい。イルカも見られて最高だった」と笑顔で話した。

(2019年7月29日付朝刊より)

夏休み最終盤、子どもたちにとってありがたいイベントもありました。

水辺の生き物 名前の鑑定会
あす須磨

 残りわずかとなった夏休みの自由研究に生かしてもらおうと、須磨区の須磨海浜水族園が28日、水辺で捕まえた生物などの名前鑑定会を開く。
 毎年この時期の恒例で、学校教員らでつくる神戸生物クラブとの共催。同クラブ会員と同園スタッフが対応し、植物、昆虫類、海藻類、貝類、魚類やその他の水生生物を持ち込めばその場で鑑定を行う。

(2016年8月27日付朝刊より)

本館などは建て替えから30年がすぎ、リニューアルが決まります。

神戸市が選んだのは、一帯の再整備も含めた民営化でした。

一帯を再整備 24年開業へ
新スマスイ 主役はシャチ
民間が全施設建て替え

 神戸市は12日、市立須磨海浜水族園(同市須磨区)など須磨海浜公園一帯を再整備・運営する民間事業者について、不動産開発会社をはじめ、ホテルや水族館の運営会社など7社で構成する企業グループを優先交渉権者に決めた、と発表した。提案では、全ての施設を建て替え、水族館には西日本唯一のシャチを展示する。新設ホテル内には日本初のイルカとの触れ合いエリアを設ける。工事は2021年度に開始し、23年度末の全面開業を目指す。
 再整備の対象は海浜公園約14ヘクタールのうち約10ヘクタールで、企業グループの代表はサンケイビル(本社・東京都)。建設費などの初期投資は370億円で、年間323億円の経済効果を見込む。
 市は水族園の建て替えを機に公園全体の魅力を向上させようと、民間事業者が園内の収益施設の利益で広場など公共部分も一体的に整備する制度を採用した。2グループが応募。今回選定したグループは、地域住民の憩いの場である公園と、観光集客を目指す都市型リゾートを両立させるコンセプトなどを評価した。
 水族館は「楽しく学ぶ」をテーマに、展示とショーのシャチ棟とイルカ棟、魚類やアシカ・ペンギンがいる棟の3棟を並べる。延べ床面積は現在の1・5倍、総水量は1万4千トンで大阪の海遊館(同1万1千トン)を超え、西日本最大級の施設となる。料金は高校生以上3100円で、事業者側は「見応えのある展示で平均3時間強の滞在時間を想定している」とした。市内の子どもの遠足などは無料。開業の24年は年間250万人、その後は同200万人の集客目標を掲げる。
 また、白砂青松の美景を損なわないよう、松林のクロマツは約7割の540本を保全する。木々の間には親子で楽しめるブック&カフェやグランピング、レストランなど、にぎわい施設3棟を配置する。全室オーシャンビューのホテルは7階建て80室に約270人が宿泊可能。駐車場は立体・平面の3カ所で合計1110台を収容する。

(2019年9月13日付朝刊より)

再整備後の施設はこんな配置になるようです。

期待とともに戸惑いの声が上がります。
一つは入場料です。企業グループからの提案では高校生以上の大人入場料が3100円と倍以上になるため、「気軽に行ける施設であり続けてほしい」という要望です。
もう一つは新たな主役になるシャチです。西日本唯一の展示となり、新施設側はシャチを見ながら食事を楽しめるエリアを設ける方針ですが、動物福祉の観点から「狭い水槽に閉じ込めないで」という声もあります。

観光施設である限り目玉となる展示は必要です。「行ってみたい」と思える魅力がなければ施設を維持できません。
ただ、神戸市民にとって家族でぷらっと出掛けられるのがスマスイの魅力の一つでした。家族の構成にもよるのでしょうが、入場料だけで1家族1万円前後となれば、なかなか気軽にお出掛けとはなりません。

スマスイの大きな水槽を眺めていると、家族づれや若いカップルのほか、遠足の子どもたちや障害者団体を見掛けました。
水槽内だけでなく、来場者の多様性も保たらながらスマスイの歴史を引き継いでもらいたいものです。

<播州人3号>
1997年入社。「珍しさ」の判断って意外と難しく、苦労します。「見たことない魚を捕まえた」と取材依頼を受けることがあります。金色のオタマジャクシだったり、ため池のクラゲだったり。そんなときに頼るのが須磨海浜水族園でした。「異例」と聞けばそれなりに扱い、「よく見つかる」と言われれば珍しさを薄めました。「学芸員によると」などと見立ても原稿に加えました。カニや魚で専門が分かれていて、突然の電話取材にも丁寧に対応してもらったことを覚えています。そんな伝統も新スマスイに受け継いでもらいたいですね。

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