見出し画像

紙面にある3色の◇印、謎の指示「ヘソのみみ削れ」―。新聞のトリビアを紹介します

神戸新聞に「句読点」というコラムがあります。月1、2回、日曜の紙面に掲載され、各部のデスクが新聞製作に関する話題を取り上げます。レイアウトなどを担当する整理部(現・紙面編集部)デスクの書いた記事には、社内でもあまり知られていない、「へー」な内容もあり、そんなトリビア(雑学)を播州人3号が集めました。

まずは上の写真にある三つの◇です。
気づかなかったり、見たとしても気に留めることはないでしょうか。
印刷ミスでも、紙面の飾りでもありません。
けれど作り手にとっては重要な意味を持ちます。
正体はこちらです。

<句読点>三原色の◇◇◇

 朝刊1面に、毎日載っている「きょうの天気」。そのタイトルの隣に、色違いで三つのひし形(◇◇◇)が並んでいます。左から順に桃色、黄色、空色―と、鮮やかな信号機のようです。このマークはただの飾りではなく、新聞製作の上で大事な役目を担っています。
 三つの色は、新聞のカラー印刷の三原色。インクジェット式プリンターでもおなじみのマゼンタ、イエロー、シアンの純度100%です。印刷現場では「カラーパッチ」と呼んでいます。
 特に、紙面にかすれなどのトラブルがあった際や、印刷資材の変更などがあった場合が出番です。少し技術的な話になりますが、専用の測定器で、インクが乾く前と、印刷してしばらくたった後の濃度を比較するなどしているそうです。異常があればデータとして分かる仕組みです。
 印刷の品質管理のツールですので、カラーで毎日掲載している「きょうの天気」にデザインの一部として組み込んでいます。実はこれと同様の仕掛けが、朝刊紙面にもう一組しのばせてありますが、お気付きでしょうか。
 答えは、ひょうご総合面(火曜―土曜掲載)の「地域版から」。縦に三つ並んでいるので、お確かめください。

(2021年11月7日付朝刊より)

もう1組の仕掛けはこんなふうに掲載されています。

紙面を通じて季節を伝えるため、花の開花や風景の写真を1面に置くことがあります。
そんな写真も印刷のバランスが崩れると、伝わる印象が変わります。
それだけに三つの◇の役割は重大です。

次は編集フロアで交わされる独特の表現です。

ほぼ毎日出てくるのが「ヘソ」です。
例えば、こんな具合に―
ヘソをもうちょっと目立たせて」
「窮屈なんで、ヘソまでしか無理やわ」

「アタマ」と「カタ」を加えれば、少し分かりやすくなるでしょうか。

<句読点>地域版のメモ

 カタとヘソ、とは言っても体の部位のことではではありません。
 地域版の紙面は、但馬や姫路などの取材部門のデスクから送られるメモに基づいて制作されます。メモはその日の紙面のメニューです。横書きで上から順に、トップ、カタ、ヘソ、段もの、つなぎの指定があり、記事の内容と長さ、写真の有無が記されています。
 トップは無論、見開き紙面で一番目立つ、真ん中の一番上に来る記事です。カタとは一番上の題字側を指し、ヘソとは紙面の中央部のことです。カタ、ヘソとはその日の紙面の2番手と3番手の記事のことなのです。
 トップは面で一番大きな見出しを使い、ストレートニュース以外は囲みになるケースが多いです。カタ、ヘソは3段クラスの見出しとなります。ちなみに段ものは2段クラスの見出し、つなぎはベタ見出しになります。これが一応の約束ごとですが、当然記事の長さは毎日違います。写真を大きくとか複数枚使用の注文がつくこともあります。紙面は毎日異なります。
 取材部門のデスクのオーダーに応えつつ、いかに分かりやすく読みやすい紙面にするか。地域版の担当者は毎日知恵を絞っています。

(2015年2月23日付朝刊より)

トップは「アタマ」ともいいます。漢字で表すと「頭」です。
紙面の記事の位置を、人の体の頭、肩、へそに見立てた表現ですが、アタマとカタが並んでいるとは、ずいぶん肩をいからせた人のようですね。それとも頭を垂れた状態でしょうか。

各地域の出稿デスクが紙面の設計図となるメニューを紙面編集部に渡す際、トップやカタに何を置こうとしているかも知らせます。その設計図を基に整理マンがレイアウトを考え、見出しを付けます。

メニューに記されたパーツが予定通りに埋まらないと、大変なことになります。
整理部(現・紙面編集部)デスクが苦肉の策としてとるのは―

<句読点>「空けて待つ」

 私が働く整理部では「どのニュースを」「どこに」「どんな大きさ」で新聞に掲載するかを決めます。毎日、神戸新聞記者や通信社から送られてくる記事のリストをにらみ、自分が担当するページについて方針を定め、朝刊であれば前日夕方の会議で報告します。
 ただし、会議までに掲載記事がすべて決まる日は多くありません。リストにあるどのニュースも、取り上げるほどの新味やインパクトがない…。そんなとき、会議では「紙面のその場所は、空けて待ちます」と報告します。
 「空けて待つ」。これが、気が小さい私にはこたえます。もちろん、深夜の締め切りまでに大ニュースが飛び込んでくれば、迷いなく載せます。しかし、何もなければ、手持ちの記事から選ぶ必要に迫られます。見出しをひねったり、未掲載のまま残っている前日までの記事を物色したり。ジタバタしながら、夜が更けていきます。
 先輩には、涼しい顔で空けて待ち、締め切り間際に鮮やかにレイアウトしていく猛者もいます。ニュースが少ない日でも読み応えのある紙面を作る技術と、社会の動きに敏感に反応して大胆に構成を変える柔軟性。小心者の私の、目下の課題です。

(2018年9月3日付朝刊より)

ドキドキするのは原稿を出す側も同じです。
とはいえ、遅い時間に起きた事故や、複雑な構図の事件などはどうしても締め切り間際まで取材や裏取り(確認)が必要になります。
そんなときは出稿部側のデスクが原稿の概要を紙面編集部に説明し、「35行、決め打ちでいくわ」などと伝えます。「35行きっかりで出稿する」という意味です。
それを受け、当該記事に仮の見出しだけが入った大刷り(ゲラ)が届きます。

整理部からすれば「空けて待つ」ですが、出稿部のデスクは「空けて待たれている」状態です。

「あと何分かかる?」
「○時○分にはいったん(原稿を)くれるか」
経験上、あまり言ってはいけないと分かっていながら、つい筆者に連絡してしまいます。

駆け出しのころ、そんなデスクの催促にあたふたしていると、先輩にこう言われました。

大丈夫。白い新聞見たことないやろ

最後は先輩やデスクが面倒を見るから今は落ち着いて原稿に集中せよ、という励ましだったと理解してますが、原稿をチェックする側、紙面編集部とやりとりする立場になると、そんな鷹揚には構えてられません。

締め切り間際は、紙面編集部のスペースも慌ただしくなっています。
印刷に回すまでの限られた時間に見出しやレイアウトを整えなければなりません。
そっちのデスクの指示もはっきりと、そして大きくなります。
「1行追い込め(詰めろ)」「写真切れ(小さくしろ)」などの声が聞こえてきます。

最近はほぼ聞かなくなりましたが、そんな会話の中に「みみ」や「しずく」が登場していました。
2015年の「句読点」です。

<句読点>!と?

 2015年も1カ月が過ぎ、早くも明日は節分です。今回は、句読点の仲間ともいえる符号の話をしましょう。
 さて、みなさんは「しずく」と聞いてどんなモノを思い浮かべますか。木の葉からこぼれ落ちる水、涙、酒、雨だれ―と、さまざまな答えが返ってきそうですね。新聞編集の場では「しずく」は感嘆符の「!」を表します。情趣あふれる表現ともとれますが、単に形が似ているだけのことです。同じ理由で「?」は「みみ」と呼ばれます。いずれも活版印刷時代から続いてきた、関係者だけに通じる用語です。たまに、入って間もない人に「見出しのみみをはずそう」と言って「?」という反応をされることもあります。
 紙面で使う符号や記号には、ほかに○□♪などがあります。ただ、記事は文字を使用し言葉で表現するのが基本です。不用意に符号を使って意味が伝わりにくければ、本末転倒になってしまいます。より大きな効果を引き出すためにも、多用は避けることになっています。
 とはいえ、もうすぐ2月14日。地域版などでは、チョコレートに関わる話題に、♡が目立つ時季ですね。

(2015年2月2日付朝刊より)

見出しに記号を使うことは少なくありませんが、それを「クエスチョンマーク」や「エクスクラメーションマーク」と呼んでいては時間がかかります。「みみ」や「しずく」の方が伝わりやすそうですね。

<播州人3号>
1997年入社。原稿のチェックに「読み合わせ」という作業があります。2人一組になり、片方が名簿などの漢字を一字ずつ読み上げ、もう片方が原稿をチェックします。読み上げ方に特別のルールはありませんが、「さがりふじ」(藤)や「さんずいにつ(告)げる」(浩)など、紛らわしい漢字は相手に伝わるよう工夫します。これが意外に難しく、コンビの息が合わないと、作業が何度も中断してしまいます。

#トリビア #新聞製作 #暗号 #印刷 #レイアウト #記号