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狛犬物語

年末年始は除夜の鐘や初詣などで神社や寺院を訪れる機会も多かったのではないでしょうか。お参りの際、注意してご覧になられましたか。鐘や鳥居ではありません。狛犬こまいぬです。知っているけど、しっかり見ることは滅多にない―。そんな狛犬たちの物語を、播州人3号が紹介します。

6434人が亡くなり、3人が行方不明となった阪神・淡路大震災は17日で丸27年を迎えます。
激しい揺れが街に甚大な被害を及ぼしました。
倒壊したのはビルや住宅だけではありません。
狛犬たちも巻き込まれました。
震災から20年以上も行方知れずになっていた狛犬の話です。

西宮神社
21年 被災狛犬「語り部」に
昨年、境内地中から発見
顔や胴欠落、直さず設置

 阪神・淡路大震災で壊れ、その後行方が分からなくなっていた西宮神社(西宮市社家町)の狛犬一対が、昨年、境内の地中から見つかった。顔が欠け、胴体の一部が無くなるなど痛ましい姿だが、同神社は「震災の記憶を伝えるもの」とあえて修復せず、そのまま設置することにした。
 狛犬は江戸時代後期の1790年、酒の神様をまつる「松尾神社」を西宮神社境内に造営した際、地元の酒造家らが奉納したとされる。
 震災で、同神社の社務所が全壊、本殿も半壊し、灯ろうなどが散乱。松尾神社も倒壊、狛犬一対も台座から落下し、損壊した。
 復旧の混乱の中、狛犬はがれきとともに、西宮神社境内の土の中に埋められた。長年その存在は忘れられていたが、昨年5月中旬、倉庫を建設するために掘り起こしたところ、地中から見つかったという。
 一体は顔が全て欠けており、もう一体は顔の左半分と胴体の後ろ部分が無くなっていた。同神社には震災を伝える展示物がないことから、その姿を残すことにした。「震災の記憶として後世に伝える」との説明看板を置き、新たな台座に据えて、本殿へと続く参道脇に21年ぶりに設置した。
 宮司は「17人いる神主の中でも当時を知るのは3人だけ。20年以上の年月がたって出てきたのも、震災を忘れないでということだろう。多くの人が見て、語り継ぐきっかけになれば」と話している。

(2016年1月14日夕刊より)

狛犬が台座から落下し、がれきに埋もれ何年も行方不明になる―。
地震の揺れの大きさと、その後の混乱ぶりがうかがえます。

狛犬は「高麗こま犬」とも書き、朝鮮半島から伝わったとされています。もとは魔よけでしたが、平安時代から神社の神様を守護する存在とされるようになったようです。正式には口を開ける阿形あがたが獅子、口を閉じ頭上に角をもつ吽形うんがたが狛犬とよばれる、と過去記事にありました。材質もさまざまで、木造、石造、瓦質、陶製などがあるようです。

守護獣は通常、獅子の姿をしてますが、淡路島には、それ以外もあります。

獅子ならぬイノシシ 洲本

 洲本市上内膳の古刹、先山せんざん千光寺の境内では、狛犬ならぬ狛イノシシが立つ。〝体長〟1・2メートル。江戸期の建立と伝えられる。
 「狛犬はふつう獅子ですが、イノシシという珍しさからか、わざわざ見にくる歴史研究家もいます」と住職。伝えでは、同寺は901年、藤原鎌足の子孫・豊広が狩りをしていた際、観音様の化身であるイノシシに誤って矢を放ち、後悔の念から建立したという。同寺とイノシシの関係はこれに由来するが、なぜ狛犬になったかは伝わっていないという。
 淡路富士とも称される海抜約450メートルの山頂にある境内。しんと静まった空気の中、2体の「狛イノシシ」は、なぞを秘めつつ、愛くるしい表情で参拝者を迎える。

(2007年1月1日付朝刊より)

狛犬に願を掛ける不思議な民間信仰をご存じでしょうか。
願う際に借りるのが狛犬の足です。

包帯にしては雑な巻き方に見え、衣装にしては中途半端な布きれ―。
不思議に思った記者が調べます。

紙面に掲載された願掛け、まじないをまとめた投稿はこちら

こま犬足元に謎の布!?
「家出足止め」「不幸止め」託す
民間信仰、神社戸惑いも

 こま犬の脚に布やひもを結びつけるのはなぜ? 包帯のようだが、けがをしたわけではない。家出人などの「足止め」の願掛けとされる。関西を中心に伝わる民間信仰で、神戸の一部の神社でも見かける。「不幸止め」「愛情止め」の意味合いもあるらしい。「正統な神事ではない」との戸惑いも聞かれる一方で、専用の布を用意する神社もある。
 神戸市長田区大道通の県道沿いに並ぶ長田神社のこま犬。脚には布やひもが幾重にも巻かれている。排ガスや風雨にさらされて生地は黒ずみ、文字もかすれている。
 「家出人が戻ってくるよう願いを込めているんです。布で縛って“足止め”するわけですね」。権禰宜ごんねぎが謎を明かしてくれた。
 こま犬に願を掛けるという民間信仰で、神社とは直接関係がない。いつ誰が巻いたかも分からない。事情を知らない氏子らから「きれいにしたら」と言われるが、結んだ人の思いをくみ、そのままにしているという。
 一方、厄よけで知られる六甲八幡神社(同市灘区)では、布を見つけたら外す。「正しい神道の姿ではない。普通に参拝してほしい」と同神社。とはいえ、むげには捨てられず、お札などとともに炊き上げる。
 どの神社のこま犬にも布が巻かれるわけではないようだ。同市中央区の生田神社や湊川神社、北区の湯泉とうせん神社は「見たことがない」という。
 異色は同市兵庫区の和田神社。こま犬に結びつける専用の布を一枚300円で扱っている。30年ほど前、問い合わせが多いため、先代の宮司が、おはらいした布を用意したという。
 願掛けの内容は「足止め」よりも、家内安全を願う「不幸止め」が多いとか。最近も、肉親の病気に悩む人が、うわさを聞いて和歌山県から来訪。おはらいを受け、思い詰めた様子で布を巻いて帰ったという。
 ほかにも受験合格を祈る「滑り止め」、恋人の気持ちをつなぎ止める「別れ止め」など、幅広いお願いを受け付ける。
 同じ願掛けでも絵馬は「―したい」と率直だが、こま犬の布は「―しないでほしい」と、複雑な事情の希望が託される。浮気防止に赤いひもを結んだり、こま犬の脚と、足止めしたい人の靴やげたに一本ずつくくったりする風習もあるという。
 和田神社の宮司は「一枚一枚の布から事態の深刻さ、切実さが伝わってくる。風習が残っているのは、暗い世の中を反映しているのでは」と話している。
関西に多い江戸末期からの風習
 国学院大学神道文化学部の三橋健教授の話 こま犬の脚に布やひもを結ぶ風習は、神社参りが盛んになった江戸末期以降に始まったとみられる。特に関西地方に多いようだ。邪気や病魔を追い払うこま犬に、悩みを抱えた人がすがった。家出や悪所通いをする者を「足止め」するとの信仰から、さまざまな願掛けに広がったのだろう。

(2009年4月17日夕刊より)

大切な人を「足止め」するため狛犬の足を借りるのですね。
江戸時代に始まったといい、関西に多い風習とは知りませんでした。

皆さんも近所の狛犬を見る際は顔つきだけでなく、足元にも注意してみてください。意外に布が見つかるかもしれません。

それが結構あるんです
播州人3号が何度も出合っています。
小さな神社の狛犬の足に巻かれた赤い布を見つけてびっくりしたことがあります。
それにはこんな経験がありました。

<播州人3号>
1997年入社。「狛犬と布」の話は、そう遠くない親類の話として聞いたことがあります。40年ほど前のことです。「なんべん参っても帰ってこおへんから、何重にも(狛犬の足に)巻いたった」と高齢の女性が法事でにくらしげに若い頃の話をしていました(「帰ってこおへんかった人」は隅の方でたばこを吹かしていましたが…)。その場にいた人たちが大笑いするほど、知られた願掛けだったんですね。そんな経験からか、神社に参ると、狛犬の足元に必ず目が向いてしまうのです。

#狛犬 #こま犬 #阪神・淡路大震災 #願掛け #まじない