神戸の街に溶け込む伝説の坂道、階段
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神戸の街に溶け込む伝説の坂道、階段

  こんにちはド・ローカルです。神戸は方向音痴(ち)の方にも優しい街と言われています。六甲連山が東西に〝鎮座〟しているため、海を見れば南方向、山を見れば北方向とすぐに分かります。
  明治期以来、港都として発展してきた神戸ですが、市南部は山と海の距離が短く、住宅開発には苦労を重ねてきました。今でも語り継がれる言葉があります。「山、海へ行く」。山を削って住宅地をつくり、海を埋め立てる、という神戸市の開発行政を象徴するキャッチフレーズです。
    この開発により、六甲山の麓から裾野にかけて多くの住宅街がつくられました。大半は高台にあるため、1000万ドルの夜景を見るには最適ですが、暮らすには「坂」「坂」「階段」「階段」…と苦労は絶えません。新聞をお届けするにもバイクや自転車が故障することも日常茶飯事です。
    三宮の北野坂やハンター坂など観光客にも名高い坂のほかにも、息をのむような急勾配ですが、人々に愛される坂が幾つもあります。そんな「伝説の坂道、階段」を厳選した5本をご覧ください。


最高勾配42・6% 市内最大の難所「きつね坂」 
                                       神戸市須磨区潮見台町

きつね坂

  山陽須磨駅西側。地元の人たちに親しまれる「きつね坂」の愛称は、タクシー運転手に告げても通じるほど浸透している。
 なぜ、きつね? かつてこの坂の下に住んでいた森本孝一さん(84)=加古川市=がお便りで教えてくれた。1867(慶応3)年生まれの祖母から70年以上前に聞いた話だという。
 いわく、「わしが小さいころは、家の近くまでキツネが坂を下りて来とった。それできつね坂なんや」。なんともシンプルな理由。まさか本当にキツネがいたとは。名前の主が住んでいた坂の北側は当然、きつね山と呼ばれていた。
 下から上がって左に大きくカーブする付近の勾配は何と42・6%。神戸に急坂数あれど、今回巡った坂の中では最高の値だ。
 森本さんは思い出が詰まった坂をいとおしむ。「歴史ある名前をずっと残してほしい」。急坂には郷愁を誘う何かがある。

(2018年6月28日付朝刊より)

 神戸市の道路台帳平面図に記載された勾配で比べてみますと、数字上のトップは、この須磨区潮見台町のきつね坂でした。山陽電鉄須磨駅西にある高架をくぐって進んだ辺りは18・5%でしたが、大きく左カーブした後の短い区間は何と42・6%。数多くの情報を精査しましたが、この値を超える坂には出合いませんでした。

まるでジェットコースター 最高勾配19・7%
              神戸市垂水区旭が丘3

神戸市垂水区旭が丘の坂

 もはや壁だ。
 カメラマンと2人、車で上ると、体がシートに押しつけられる強い重力を感じる。ギアをローにし、低いうねりとともに進む。「おおお」―。滑り落ちそうな恐怖で思わず声が出た。
 「対向車あり最徐行」。黄色い看板が二つ見えた。頂点は近い。ふっと体が浮き上がると、すぐに急降下した。住宅街の向こうに、明石海峡がかすんでいる。坂の反対側も15・8%の急勾配の坂。ゆっくり上がって一気に下がる。まさにジェットコースターだ。
 頂点には最近まで、対向車の存在を知らせるカーブミラーが設置されていたという。「水平下向き」に。
 坂の途中に約40年住んでいるという男性(67)に出会った。「冬は滑るし怖いけど、しゃあないな。ここよりきつい坂? 神戸やったらあるんと違うか」。汗を拭うと、慣れた足取りで坂を下りていった。

(2018年6月13日付朝刊より)

 「もはや壁だ」。取材に行った記者とカメラマンの驚きを象徴するような第一声が興味深いです。私も車を走らせたことがありますが、嘘偽りなくジェットコースターのようなスリル感でした。

最高勾配=不明 体感ナンバー1の「クネクネ坂」 
             神戸市東灘区住吉山手6

くねくね坂

「赤塚山公園に登る〝クネクネ坂〟がハードです」「絶対、ここが神戸で一番きつい!」
 寄せられた情報に胸が高鳴る。車で上ろうとして、曲がりくねって先が見えない坂にたじろいだ。まさに「クネクネ坂」。歩いて上ってみることにした。
 住宅街から突然、森の中に瞬間移動したような錯覚に陥る。坂の両側は緑の木々に囲まれ、日陰になっていて涼しい。大きく右にカーブした後も、坂道はまだ上に延びている。
 通学路になっているのだろう。夕方、地元の中学生が次々に上っていく。ゆっくりと、一歩一歩、踏みしめるように。いくら若くても、歩き慣れても、この急坂では自然とペースは落ちるらしい。
 果たして勾配は。期待して神戸市役所で調べたが、古い道のためか、道路台帳平面図に数値の記載はなかった。残念。

 (2018年6月15日付朝刊より)

神戸市東部も急坂の宝庫とされています。取材の中で、「ダークホース」に位置付けられたのが、東灘区住吉山手の「クネクネ坂」。白鶴美術館南側から赤塚山公園へ続く曲がりくねったこの坂は、残念ながら神戸市の道路台帳平面図に勾配の記載がありません。ただ、上ったことがある人は口をそろえます。「ここのきつさが神戸ナンバーワンだ!」

 続いては階段です。坂とは異なり、車やバイクでは上れません。登山を思わせる長く過酷なものや、住宅街の暮らしに溶け込むもの、数えるたびに段数が変わる都市伝説めいたものまで、実に〝多士済々〟な階段が存在します。紙面の連載で紹介した12の階段のうちから2選を紹介します。

   斜面切り裂く稲妻階段  段数123段 
            神戸市須磨区一ノ谷町1

稲妻階段

 海が見えたかと思うと、今度は山。上る途中、ジグザクに向きが変わる。もう一つの特徴は、足裏のかかと部分がはみ出す、奥行きの短いステップ。
 「人呼んで、稲妻階段です」。須磨一の谷グリーンハイツ(11棟332戸)に住む坂田恭子さん(48)が教えてくれた。国道2号からの、ハイツへの近道。だが、高度成長期の分譲から半世紀近くたち、今や住民の6割が60歳以上だ。「お年寄りにはきつすぎて」使う人は減った。
 ハイツの活性化に取り組む住民たちは先月、キャンドルで階段を飾り、一夜のライトアップを試みた。幻想的な光に誘われ、家にこもりがちなお年寄りも笑顔で姿を見せた。
 「利用者が減っても、思い出が詰まったここのシンボル。来年も続けたい」と坂田さん。斜面を切り裂く〝稲妻〟が、秋の日差しを受けて輝いていた。

(2018年11月14日付朝刊から)

 ジグザグに延びる階段。斜面に映える手すりはまさに稲妻のように見えなくもないです。わが家へ向かう近道として作られたようですが、さすがに毎日、上り降りするともなると…。根性いります。

  天国に続く407段 絶景、でも上る… 
              神戸市須磨区多井畑

天国に続く階段

 「天国に続く階段」。そう表現したメールもあった。栂尾(とがお)山(274メートル)の斜面を覆う、通称「四百段」。この連載に際し、最も多くの情報が寄せられた階段だ。
 草木が覆う入り口に恐る恐る足を踏み入れる。まっすぐ延びるステップは、まさに天国へ続くようだ。バランスを崩せば真っ逆さまに落ちていきそう。高所恐怖症の方には、とてもお勧めできない。
 高度成長期に宅地造成で山を切り開いた後、付けられたという。一部は神戸・須磨から宝塚市まで踏破する六甲全山縦走大会のコース。今年の開催日だった11日、早朝から挑戦者の長い列ができた。
 縦走でなく階段を上るだけなのに、息は上がり、ふくらはぎはパンパン。「もうあかん」。撮影を終えたカメラマンがしゃがみ込んだ。そう言えば、冒頭のメールには続きがあった。
 「上り始めると地獄です」

(2018年11月22日付朝刊から)

 写真は六甲全山縦走の開催日のもので、挑戦者のヘッドライトの光が夜明け前の急階段を彩りました。まっすぐ、天まで続くように並ぶ407段。取材した記者は「振り向くと落っこちそうで恐怖を覚えました。ハイカーがすたすた上り下りする中、初心者の私たちは身震いしました」と感想を記していました。

今回紹介した記事は2018年に神戸新聞で連載した「坂をのぼれば」「階段のぼれば」の中から5本を厳選しました。同じく、神戸版で展開した「マンスリー特集」(「M's KOBE」)のサイトでも読むことができます。
 
<ド・ローカル>
 1993年入社。朝来市出身。記者生活28年目。神戸暮らし25年を過ぎ、坂道や階段と〝同居〟する生活に慣れてきました(笑)。最近はそれに物足りず、六甲山制覇をもくろんでいます。

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うれしいです。姫路・網干の秋祭りの様子です(2019)
兵庫県の地方紙「神戸新聞」です。過去記事の中から、記者らがテーマごとに独自の視点で選び、背景や取材の裏話などとともに紹介します。ゆかりの有名人の逸話や、ほっこりする地域の話題など兵庫の魅力を、毎週水曜正午と土曜午後6時に投稿します。「おもろい」と思われた方、ぜひフォローください