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「で、それがどうした?」。思わず突っ込みたくなるプライベート全開な記者コラム!

新聞の「コラム」とは何ぞや?

現場の記者にそう問い掛けると、さまざまな反応が返ってきます。

まじめな人ならば、「話題になっているニュースに絡めて自分の考えや思いをつづるもの」だとか、「取材を通して感じたことや裏話なんかを書くもの」だとか、そういった類いの答えになります。

四季の変化、いわゆる季節感を出したり、有名な一節を引用したり、何気ない日常を織り込んだりすることを大切にする人もいます。

私見では、どれも正解です。
正解というか、模範解答に近いものです。

私は、さらに拡大解釈し、記者が表現したいことを表現する、「何でもあり」なのがコラムだと思っています。

極端なことを言えば、いわゆる普通のスタイルの記事を書いた記者が、「これはコラムだ」と言い張れば、それは記事ではなく、コラムなのです(この考え方が正しいかどうか、そして実際にコラムとして受け入れられるかどうかは別問題として…)

ただ、神戸新聞の紙面に掲載されるコラムを見ていると、やはり、先述したような「模範解答」に沿った内容が多数を占めます。

書き出しをみれば、一目瞭然。

「●●●●●の取材で……」「●●●●●のニュースで……」というような表現で始まる文章がかなりあります。

これに対し、露骨さを嫌ってか、冒頭を一工夫したものもあります。

象徴的な描写やエピソード、引用などで切り出しておいて、中ほどで本題のニュースに触れるという展開ですが、これもパターン化していると言っていいでしょう。

そんな中で、完全に振り切って、100%、混じりっけなしのプライベート情報に終始するコラムがあります。

読者から「で、それがどうした?」「何が言いたいんだ?」と突っ込みが入ってもおかしくないのですが、それはそれで味があり、今風に言えば「エモい」内容に仕上がっています。
全てがわが事なので、一つ一つの描写や感情をリアルに表現できるからなんでしょうかね。

というわけで、前置きが長くなりましたが、記者シャープが、過去に掲載されたプライベート全開コラムを選んでみました。

ゆるーい感じで目を通していただけたらと思います。


◆恋人よ <Part.1>

 長く連れ添った“恋人”が重い病にかかった。
 いつも冷たいビールを僕にくれた。ビールが切れる度、君をたたいたことを今更ながら後悔している。
 数年前から君は病気がちになり、その度、驚異の復活を見せてきた。でも今回は、とても重そうだ。異音にうなる君を見るのがつらい。
 ボーナス時期に寿命を迎えるいじらしさ。君と過ごす最後の夏だろう。ぬるくてもいい。君が冷やしたビールが飲みたい。頑張れ、冷蔵子(庫)!

(2010年7月6日付、Y記者)

冷蔵庫の調子が悪くなっただけ。
冷たいビールが飲みたいだけ。
ただ、それだけのことです。

しかも、たたいたのが不具合の原因だとしたら、完全な自業自得。そんな〝しょうもない〟エピソードでも、こうやって紙面に載るのですから、コラムというものの深淵を感じさせてくれます。

続いても、同じY記者のコラムです。


◆恋人よ <Part.2>

 禁煙をした。1カ月間、ガムをかんで、ジョギングをしてイライラを慰めた。体は快調で、近年まれにない素晴らしい日々だった。
 しかし、文章が頭に浮かばない。これは、ピンチ。原稿が書けない。これも仕事のためと、心を鬼にして1本くわえた。あー、たまらん。頭の中を文章が駆け回った。
 世界で1番キスを交わした恋人“煙田(けむりだ)たば子”さん。やっぱり、君が大好きだ!いつかきっとやめようと思うが、今は君との時間を大切にする。

(2011年3月9日付、Y記者)


新たに、タバコが「恋人」認定されました。
前回の「冷蔵子」といい、今回の「煙田たば子」といい、好きになったら擬人化する癖があるようですね。

そんなY記者が、勤務地を離れることになり、読者に別れを告げるコラムを書きました。
「●●」には、勤務した地名が入ります。

◆恋人よ <Part.3>

 ●●は、僕の恋人でした。どこに行っても、何をしていても頭の中は、●●でいっぱいでした。街の皆さんと、お酒を飲みながら、●●を語り合った時間は宝物です。
 少子高齢化、過疎など不安もありますが、●●の未来を楽しみにしています。というのも、●●市が誕生した日、僕は新聞記者になりました。まだまだ未熟ですが、まだまだ伸び盛り。一緒に成長していきましょう。
 私は●●を去りますが、これからも●●の歩みを、神戸新聞に刻みつけてください。

(2013年2月28日付、Y記者)


冒頭で、地元への思いを「恋人」と表現しています。
しかし、Y記者のコラムを読んできた人なら、きっとこう感じたことでしょう。

「冷蔵庫やタバコと同じ程度の愛情だったのか…」

まあ、これは冗談として、実際のY記者は地元に愛着を抱き、溶け込み、根付き、そして、地域の人たちからも愛されていたことを書き添えておきたいと思います。
そして、これらY記者のコラムが、実は相当にレベルが高いことも。


続いては、プライベート全開ながら、打って変わってまじめなコラムです。

◆母よ

 仕事から帰宅すると、所狭しと部屋に積まれた新聞と雑誌に出迎えられる。掃除も満足にできていない状況は、仕事を終えた体をさらに疲労させる。実家の居心地の良さを思い浮かべ、親のありがたさを身にしみて感じる毎日だ。
 母親から、食料や手紙が毎月届く。果物、梅干し、キムチなど。偏った食生活を見越してか、手軽に栄養が取れる食べものは助かる。
 食料品が詰め込まれた段ボールの中には必ず手紙が入っている。「遠い神戸で頑張っているのを応援しています」などと書かれた文字が並ぶ。気恥ずかしくて読むことをためらうが、読み終えると、遠方で支えてくれる親のありがたさを実感する。
 先月、母の誕生日を忘れてしまっていたので、少し遅くなったが、誕生日カードを書いた。が、筆が進まない。手紙なんてまともに書いたことがなく、一人で赤面した。できた文章は「誕生日おめでとう。旅行かばんを贈ります。テレビ鑑賞ばかりの単調な日々から抜け出してください」。皮肉を交え、つづった感謝の気持ち。伝わったかどうか、返事はまだない。

(2007年8月23日付、K記者)


執筆したK記者は当時、入社1年目の駆け出しでした。
雑然とした自宅の描写、母からの仕送りのエピソードなどから、そこはかとなく感じ取れますよね。

「(母への感謝が)伝わったかどうか、返事はまだない」というフレーズで締めていますが、思わず「伝わらないわけないやん」と突っ込んでしまいました。
もがく息子を、遠くから応援する母。
その感謝の気持ちを、遅ればせながら伝える息子。
「ほほ笑ましい」とは、こういうことを言うのでしょう。


最後は、ちょっぴり変わり種の私的コラムをご紹介します。

◆金魚よ

 わが家で飼っているデメキンの様子がおかしい。
 おととしの夏、祭りですくったときは真っ黒だったのに、次第に色が明るくなり、今では全身が赤くなってしまった。金魚らしくてかわいいけど、病気だったら心配なので、金魚養殖が盛んな奈良県大和郡山市の「やまと錦魚園」に原因を聞いてみた。
 デメキンとの出合いは、2019年8月24日夜。前任地の丹波市であった愛宕祭を取材した際、すくった7匹のうちの1匹だ。他の金魚はすぐに死んでしまったけれど、一番小柄だったこのデメキンはなぜか長生きしている。
 ルームメートになって、もうすぐ2年。指を水面につけると餌と勘違いしてつつきにくるし、ひらひらとなびく尾ひれを眺めていると心が落ち着く。
 異変が起きたのは、20年春の転勤で西宮市に引っ越し、1年ほどたってから。眼球まで黒かったのに、胴や顔がまだらに赤みを帯び、6月下旬には全身が赤に変色した。目元だけうっすら黒いが、遊びに来た友人に「もともとは真っ黒やったんやで」と言っても信じてもらえないくらい、赤い。
 「それは、あり得る話なんですよ」
 やまと錦魚園で働く西脇高広さんの言葉に、ひとまずほっとした。
 デメキンといえば黒いイメージがあったが、西脇さんによると、黒いデメキンは赤い品種を改良して生まれたのだという。見た目には黒くても赤い色素が残っていて、環境や個体によってはその赤が浮かび上がるのだとか。
 光が差し込む水槽で泳がせていると、白くなってきたり、色あせたりすることがあるという。確かにわが家のデメキンは透明の金魚鉢に泳がせていて、部屋も南向きマンションの6階で日当たり良好だ。
 「病気ではないと思うので安心してください」と西脇さんが優しく教えてくれた。出合った頃とは〝別人〟のように赤くなったデメキンとこれからも仲良く暮らしたいと思います。

(2021年7月27日付、O記者)


飼っているデメキンの色の変化について、つらつらと思うところをつづっていくのではなく、専門家への取材を盛り込んでまとめています。

「何でもあり」がコラムの定義と言いましたが、ストレスなく、すっと読めるのが前提条件です。
専門家の解説を加えると、文章が硬くなりがちですが、このデメキンのコラムは、体験談などをバランス良く挟み込みながら書き進めているように思います。

プライベート感満載ながら、金魚の豆知識も含まれていて、読み終えたときにちょっぴりお得な感じもしますよね。


というわけで、神戸新聞の過去記事から5本のコラムを集めてみました。

お気づきになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、「プライベート全開」と言いつつ、ビールにタバコ、新生活など、その時々の季節感だったり、ありふれた生活感だったり、社会性のある話題だったりがにじんでいるんですよね。筆者本人が、どの程度、意識しているかどうかは分かりませんが。


神戸新聞の地方版では、「風」や「浜風」、「ハーバーだより」といったカットとともに、不定期でコラムが掲載されています。

たとえプライベート感は薄くても、記者の個性が垣間見えるので、紙面で見かけたときは、ぜひぜひチェックしてみてくださいね。


<シャープ>
2006年入社。コラムを書くのは嫌いではないが、あれこれこねくり回した挙げ句、「模範解答」に収束しがち。発想が貧困なのか、文章力が乏しいのか…。殻を破りたい。

#コラム #記者 #プライベート