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「E―ディフェンス」。世界最大の実験装置が明らかにしてきたものは―

神戸市に隣接する三木市に巨大な実験施設があります。ビルをすっぽり収めることもできる施設の愛称は「E―ディフェンス」。世界最大の震動装置が備わっています。兵庫の世界一と言えば、明石海峡大橋(残念ながらトルコの吊り橋に抜かれトップの座から陥落しましたが…)やスーパーコンピューター「富岳ふがく」が有名ですが、こちらも堂々の世界一。ただ、ほかの施設ほどは知られていないようで、播州人3号が完成までさかのぼって紹介します。

正式名称は「実大三次元震動破壊実験装置じつだいさんじげんしんどうはかいじっけんそうち」。三木市の三木震災記念公園にあります。
建造のきっかけは1995年1月の阪神・淡路大震災でした。

最大震度7の揺れは、住宅やビル、高速道路、港湾施設などあらゆる構造物に甚大な被害を及ぼしました。耐震性を向上させるには、倒壊のメカニズムの解明が不可欠で、実物大の建物を使った実験が必要になります。

主要施設の完成を伝える2003年の記事です。

震動実験棟が完成
三木震災記念公園

 阪神・淡路大震災で問われた構造物の耐震性の向上を探るため、三木市志染町、三木震災記念公園(仮称)で建設が進められている「実大三次元震動破壊実験施設」(E―ディフェンス)の実験棟など主要施設が1日、完成した。今後は実験装置を設置し、震災から丸十年となる2005年1月の始動を目指す。
 実物大の建物などに震動を加え、その動きや破壊のメカニズムを探ろうと、独立行政法人の防災科学技術研究所が2000年に着手。総事業費は約500億円。
 震動台は前後、左右、上下方向と三次元の動きが可能で、阪神・淡路大震災の再現もできるという。震動台の積載重量1200トンは世界最大。高速道路の橋梁や四階建て鉄筋コンクリートマンションも載せることができ、従来の模型やシミュレーション実験では分からなかった新たな研究成果が期待される。
 実験棟は床面積5200平方メートル、地上43メートル、地下19メートルの平屋建て。震動台の動力となる油圧ポンプを設置した油圧源棟、実験準備棟も併せて完成した。関係者約120人が植樹などで節目を祝った。

2003年7月1日夕刊より

写真の震動施設そばにいる人(左下)と比べてみてください。巨大さが分かります。

こちらは外観です。この建物の中に震動装置が置かれています。
初の公開実験には地元住民らも招かれました。

三木の震動施設
初の公開実験

 三木市の実大三次元震動破壊実験施設(E―ディフェンス)で10日、実物の木造住宅を使った公開実験が初めて行われた。市民ら約600人が見守る中、京都市から移築された京町家と、同じ構造で新築された住宅の計2棟を震度6弱程度の地震動で揺らし、比較した。
 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)と京都大が文部科学省の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として実施した。
 京町家は1932年築の2階建て。実験に合わせ、パネルやはしご型フレームを壁に取り付ける簡易な耐震補強が施され、新築住宅は現行耐震基準に合わせ建てられた。
 実験では、震度6弱程度の地震動を水平方向に与え、各棟に約300個ずつ設置したセンサーで揺れ幅などを計った。その結果、京町家は補強効果で倒壊はしなかったが、左右に計40センチ揺れ、土壁に亀裂が入ったり一部がはがれ落ちた。一方、新築住宅は揺れ幅が30センチにとどまった。
 実験を率いた鈴木祥之京都大教授(耐震工学)は「京町家と同じような住宅は全国に多くある。効果的な耐震設計や補強の方法を考えたい」と話していた。

2005年11月11日付朝刊より

愛称の「E―ディフェンス」は公募で決まりました。
ディフェンスの意味は「防御、守備」ですが、「E」とは何か?

3次元震動破壊実験施設
愛称など決まる

 防災科学技術研究所は16日までに、三木市に建設中の実大三次元震動破壊実験施設の愛称とシンボルマークを決めた。
 愛称は尼崎市西昆陽の会社員の提案を一部変更した「E‐ディフェンス」。EはEarth(地球)を表し、地球規模で災害を未然に防ぎ、住民の生命と財産を守る研究開発への期待を示した。
 シンボルマークは龍野市の高校生の案。大地震のエネルギーの姿と、これに対応する震動破壊実験施設の三次元の動きとを三色で表した。
 同施設は、実物大の構造物を搭載して、阪神・淡路大震災クラスの地震を三次元で再現。なぜ、どこまで壊れるかなどを解析して、建物の耐震設計に役立てる。1998年度に着工し、2004年度完成の予定。

2001年1月17日付朝刊より

「地球規模で災害から守る」という期待が込められています。
世界最大の装置を使えば、こんな比較実験も可能です。

三木の振動施設
震度7を再現     
補強の有無 

振動を加える前の木造住宅。建築年数や間取り、元の構造はほぼ同じ
阪神・淡路大震災を再現した揺れで、耐震補強を施した住宅(左)は倒れなかったが、無補強の住宅は1階部分がつぶれ倒壊した

 三木市の実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)で21日、実物の木造住宅を使い、阪神・淡路大震災の震度7の揺れを再現した公開実験が行われた。築31年の2階建て住宅2棟のうち、耐震補強した住宅は倒れなかったが、無補強の一棟は倒壊。大震災と同規模の地震が起きても耐震補強が効果的なことが実証された。
 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)と東大などが、文部科学省の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として実施した。
 実験に使われた二棟は、いずれも「木造軸組構法」と呼ばれる日本の典型的な住宅。旧耐震基準の1974年、明石市内に隣接して建てられた。所有者が公募に応じ、実験に提供。ほぼ同じ構造で、片方にだけ筋交いや壁の増設などの耐震補強をした。工費は110~120万円という。
 実験では、神戸市須磨区のJR鷹取駅構内で観測された大震災の地震動を忠実に再現。振動台に載せた2棟を垂直、水平方向に激しく揺らした結果、無補強の住宅は10秒程度で1階部分が完全につぶれ全壊した。補強した住宅は壁がはがれたものの、建物はしっかりと立ち一部損壊にとどまった。
 実験を統括した坂本功東大教授(建築構造学)は「補強の有無で被害の差は歴然。耐震診断を受け、強度が劣る住宅は補強を勧めたい」と話した。

2005年11月22日付朝刊より

建物の倒壊メカニズムの解明だけではありません。
阪神・淡路大震災でも問題になった液状化現象も再現できます。

三木「E―ディフェンス」
液状化の恐怖再現

(上)右から海、護岸の矢板、構造物、砂地を模した装置(中)阪神・淡路大震災で観測された揺れを加える(下)液状化で矢板や構造物が崩れ、砂地は洪水のように

 三木市の実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)で23日、地盤の液状化を再現する公開実験があった。震度7の揺れで液状化が起こり、地盤が水平に流れる「側方流動」で護岸は崩壊し、構造物は倒壊した。
 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)と東京工業大などが実施。市民ら約三百人が見学した。
 実験では、幅4メートル、長さ16メートル、高さ4・5メートルの鉄製の水槽に「海」、矢板式の「護岸」を用意。埋め立て地同様の水を含んだ砂地に、長さ4メートルの杭(くい)六本を埋め込み、構造物を載せた。杭周辺に約850台のセンサーを張り巡らせた。これほどの規模の液状化実験は世界初という。
 阪神・淡路大震災でJR鷹取駅(神戸市須磨区)で観測された震度7の揺れを加えると、約40秒間の振動で海は波打ち、護岸や構造物は崩れた。砂地は水が染み出すなどし、洪水のような状態に。杭はいずれも折れたとみられる。実験を統括した時松孝次・東工大教授(建築学)は「建物の基礎に働く荷重のデータを、地盤改良や杭の強化など液状化対策に役立てたい」と話した。

2006年3月24日付朝刊より

効果の検証も柱の一つです。

耐震補強の効果を実証
実物大校舎被害なし三木で震動実験

実験後、耐震補強の効果が発揮された建物を見る研究者ら

 三木市の実大三次元震動破壊実験施設(E―ディフェンス)で30日、学校の校舎を模した鉄筋コンクリートの建物を使い、耐震補強効果を調べる公開実験があった。柱の間に鉄骨ブレースという筋交いの耐震補強を施したところ、阪神・淡路大震災を再現した震度6強の揺れで被害はほとんど見られず、補強の効果が実証された。
 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の主催。建物の1階から3階まで、四辺のうち二辺の中央部に鉄骨ブレースを後付けで設置した。
 実験では、震動台の上の地盤に基礎を部分固定。阪神・淡路大震災時に神戸海洋気象台の旧庁舎(神戸市中央区中山手通)で観測された揺れを40秒間加えたところ、ブレースは変形したが、被害はほとんど見られなかった。
 同研究所は、9月に同様の建物で耐震補強を施さずに実験。基礎を固定せず免震構造のような状態だったが、一部の柱にひびが入った。
 同研究所の壁谷沢寿海・東大教授(耐震工学)は「補強の十分な効果が出た。鉄骨ブレースによる今回の補強は、通常の建築費用の一割増しでできる」と強調した。

2006年10月31日付朝刊より

災害は場所を選びません。それゆえ、あらゆるケースを想定した実験が試みられていきました。いくつかを紹介します。

地上約100メートル、30階建てビルの最上階部分を再現し、ゆっくりとした揺れの影響を調べる実験。室内は船の激しい揺れのような状態となり、固定していない家具がことごとく倒れた(2007年3月)
激しい揺れの震度6強の「短周期地震動」を手術室に与える実験。医療機器の大半が大きく動いて倒れ、患者や医療スタッフの命にかかわりかねない状況となった(2009年1月)
博物館の展示室をイメージし、仏像や甲冑などを並べた空間で、首都直下型を想定した震度6強の揺れを再現(2021年12月)
27・45メートル(地上10階建て)の鉄筋コンクリートの建造物を使用した実験(2015年12月)

2011年の東日本大震災を受け、施設に改造が加えられました。
30年以内の発生確率が70~80とされる南海トラフ巨大地震に備えるためです。

三木、E―ディフェンス改造完了
東海・東南海揺れ「再現」
長周期と短周期、同時に長時間

 東日本大震災を受け、三木市の実大三次元震動破壊実験施設(E―ディフェンス)で進められてきた施設の長周期・長時間地震動化工事が完了し29日、性能の検証実験が行われた。東日本で観測された地震波に加え、東海・東南海など南海トラフ巨大地震で想定される揺れを「再現」。長周期と短周期の地震動が同時に長時間再現できるようになり、今後の防災研究に生かされる。
 東日本では長周期・長時間の揺れが続き、高層ビルで内装材の破損やエレベーター停止があった。南海トラフでも同様の被害が想定されている。
 同施設では、揺れを引き起こす油量の関係で、再現時間は5分程度までが限界だった。このため、防災科学技術研究所などが長周期・長時間を実現できる改造工事に着手。約40億円かけ、油圧システムの最大油量を増やすなどで水平・垂直方向の揺れを最大約17分間に延長、36通りの揺れを再現できるようにした。
 実験では、震動台に鉄筋コンクリート4階建ての免震建物を設置。宮城県大崎市で観測された震度6強の再現と、東海・東南海で想定される震度5強が実演され、消費油量などを確認した。
 同研究所兵庫耐震工学研究センターの梶原浩一センター長は「今後、大規模建築物の耐震性能の研究に取り組みたい」としている。

2013年3月30日付朝刊より

<播州人3号>
1997年入社。E―ディフェンスの実験動画は神戸新聞電子版NEXTで視聴できます。最初は巨大な建物を揺らすエネルギーに圧倒されますが、人工ではない自然の揺れが人々の暮らす町を襲い、破壊したことを思うとぞっとします。

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