神戸新聞公式「うっとこ兵庫」
最後の砦 「絶滅危惧店」の闘い
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最後の砦 「絶滅危惧店」の闘い

神戸新聞公式「うっとこ兵庫」

 「県内で唯一の生き残り」「市内ではもう●店舗しか残っていない」。当たり前のようにある時は、取り上げませんが、「希少」の領域に入ると、その途端にニュースとして原稿にする習性が新聞社にはあります。
 店主さんへの「エール」なのでしょうか? 時代の潮流にのまれて消えていく寂しさを憂いているのでしょうか?

 こんちにはド・ローカルです。今回は県内の絶滅危惧種ならぬ「絶滅危惧店」の闘いを紹介したいと思います。
 まずは、県内北部、但馬地域にあるこのお店からどうぞ!

「バーガーシティ」チェーン店なのに1店舗?

バーガーシティ「サン・ロード店」。懐かしいロゴマークの看板(右下)も健在

 「100円バーガー」で一世を風靡した幻のフランチャイズチェーン店「バーガーシティ」の唯一の生き残り―。そんなうたい文句を発信するハンバーガー店が、豊岡市のJR江原駅前にある「バーガーシティ・サンロード店」(同市日高町日置)だ。「チェーン店」なのに1店舗しかないとは、いかに? 謎を解決すべく、店を訪ねた。

 落ち着いた雰囲気の飲食店街「サンロード一番街」の北側入口付近。年季の入った看板と、店内が見えないほどメニューが貼り付けられたガラス張りの店舗に目が引かれる。バーガーのBをハートとかけた赤と黄色の〝昭和感〟漂うロゴマークの横には「電子マネー」や「タピオカ」ののぼりがはためく。
 1998年に本部が倒産。保証金の返金もなく、加盟店からは「夜逃げ」などと非難の声が相次いだが、「チャンスだ」と喜んだのはサンロード店の上坂晃太郎店長だった。以前からオリジナルメニューを出してみたいと思っていたことから、自前で食材や資材を調達。従来のメニューに加えて新しいハンバーガーを作り始めた。
 特産品のとち餅を使用した「とちの実バーガー」(460円)は、両親が働く餅製造工場でとち餅をパティ状に加工してもらい、ハンバーグと一緒に挟み込んだ。見た目は地味だが、甘辛いしょうゆの味付けは肉との相性がよく、とちの実のほろ苦さがアクセントになっている。「はやりのもちもち食感ではなく、本物の餅。だから腹持ちもいいですよ」
 ハッシュドポテトとナゲット、コーンボールのセットは、頭文字を並べて「はなこ」(300円)としたネーミングセンスも独特だ。
 サンロード店と同様に個人営業で続けてきた店舗もあったが、7年ほど前からは堺市の白鷺店との2店舗のみになった。同店の高齢のオーナーと連絡を取ることもあったが、2018年末に閉店したという。
 サンロード店の歩みも苦難の連続だ。国道の整備などで交通量が移り、駅周辺の商店街も閉店が相次いだ。一時、大手チェーン店が近くに出店したこともあった。客数は減ったが、学校帰りに立ち寄る高校生や、バーガーシティを懐かしむ遠方からの来客もあり、法事などで休む以外はほぼ無休で営業している。
 上坂店長は、カウンターで客を待ちながら「バンズに何を挟むか、ずっと考えている」という。注文のほとんどがテリヤキバーガー(250円)など定番で、オリジナルメニューが出ることは少ないが「新しいことに挑戦し続けたい」と前向きだ。
 会員制交流サイト(SNS)でも積極的に発信。チキン南蛮サンド(360円)の宣伝には大手チェーン店の名を挙げて「同じような商品を発売されていますが、当店では10年以上前から絶賛販売中!」と売り込み、「#買って守ろう絶滅危惧店」などとPRする。
 地元にも追い風が吹き始めた。JR江原駅周辺では、日本を代表する劇作家平田オリザさんが昨秋移住。主宰する劇団「青年団」も東京から拠点を移し、今春には「江原河畔劇場」がオープンする。豊岡市が推し進める「演劇のまち」構想の中心地として全国から注目を集めそうだ。
 「新たなハンバーガーの構想が三つある」と上坂店長。「ヒット商品になるかどうか自信はないけど、ここまできたからには、バーガーシティを守り続けたい」。元チェーン店は、オリジナル感あふれる店として生き残っている。午前11時~午後7時。同店TEL0796・42・3648

ハンバーグの下にとち餅を挟み込んだ「とちの実バーガー」とサイドメニューの「はなこ」

バーガーシティは大阪府豊中市に本部がありました。1980年代前半から急成長し、ピーク時には関西を中心に全国400店舗以上を展開したそうです。サンロード店は、北近畿豊岡自動車道が開通前で配送ルートもなかった1987年、10坪の小さな「但馬1号店」として開業しました。これを皮切りに但馬各地に10店ほどがオープンしましたが、ハンバーガー大手チェーンやコンビニエンスストアの進出などから1998年に本部は倒産しました。

1世紀続く神戸名物 今は7店舗

野球カステラ

 バットや帽子など、野球用具をかたどった一口サイズのお菓子「野球カステラ」の魅力を伝える展示が、三宮オーパ(神戸市中央区三宮町1)の地下1階入り口で行われた。
 野球カステラは隠れた名物として100年以上の歴史がある。一方で、市内の店舗は7店に減少。広く知ってもらおうと、神戸市職員の志方功一さんが代表を務める愛好会などが展示を企画した。
 閉店した店から重さ数キロの鉄製の焼き型や生地を絞る器具を集め、仕事場を再現。野球カステラが考案された大正期ごろに使われていたグラブやキャッチャーマスクなどの野球関連品約20点も展示された。 

2022年4月29日神戸新聞朝刊

野球カステラを愛するあまり、こんなことも…

野球カステラの帽子

 野球道具をかたどった神戸名物のお菓子「野球カステラ」の野球帽が、実際に着用できる本物の帽子になった。その魅力を伝えたいという神戸市職員志方功一さんが発案し、神戸市長田区の町工場の協力を得て実現。全体がこんがり焼けたカステラの茶色で、頭にぴったり入る大きさに仕上げた。町おこしの催しなどで志方さんらがかぶり、知名度アップに役立てていく。
 野球カステラは、瓦せんべい屋がサブ商品として販売し、約1世紀の歴史があるとされる。卵や砂糖で作る素朴な味わいで、ふっくらとした一口サイズ。バットやグラブ、キャッチャーマスクなど約10種類ある。
 志方さんによると、50年前には市内の多くの瓦せんべい屋で野球カステラを作っていたが、現在では7店しか焼いていないという。幼い頃から親しんできた志方さんは「このままではなくなってしまう」と危機感を覚え、その歴史を研究。老舗の職人が手焼きをする様子をライブ配信するなど、神戸名物として市内外にアピールしてきた。
 野球帽の形をしたカステラを「帽子に戻す」計画は、志方さんがずっと温めてきた。しかしカステラの帽子の頭は、8枚の生地を縫い合わせる「8パネル」。現在の主流は6パネルのため、型紙がある帽子店がなかなか見つからなかった。苦労の末、特注の帽子や服などを手掛ける柳谷縫務店(長田区久保町8)を見つけ、協力を取り付けた。
 6月に打ち合わせを始め、熱意を知った長田区内の町工場が次々に協力してくれた。頭の正面やつばに付いている「A」の文字は、志方さんが焼き型を参考に手描きで型を作り、刺しゅう店がワッペンに加工。帽子裏のアルミ製の留め具は、金属加工などを手掛ける会社が作り、つばの厚紙には靴工房の型紙を使った。
 完成した二つの帽子は8月上旬、関係者にお披露目された。志方さんは「ワッペンや留め具の材質など、細部まで表現できてうれしい」と感慨深げ。一つは志方さんが自ら着用し、町おこしのイベントで野球カステラにまつわる話をしたり、菓子店の職人にかぶってもらったりする予定。もう一つは職人が興味を持っているという、野球カステラを扱う「手焼き煎餅おおたに」(中央区割塚通7)へ贈る。

2021年9月9日付神戸新聞朝刊

こだわりは「変わらないこと」 神戸・兵庫のうどん店「伊勢屋」

伊勢屋の外観

 「営業しているの?」。これが第一印象だ。今にも崩れそうな年季の入った建物。のれんは掛かるが、店名も書かれていない。看板にうっすら「うどん」「寿し」の文字が残る。
 うどん店「伊勢屋」(兵庫区下祇園町)。創業から60年以上、一度も改修をしていないという。店内に入ると、2代目店主の渡邊敏夫さんが笑顔で出迎えてくれた。「おやじが店を始めた時のまま。震災にも台風にも耐えてきた。建物はボロボロやけど、元気なうちは続けたい」
 壁には27種類のメニューが並ぶ。張り替えてある値段部分以外は茶色に変色している。その一つ「しのだ」に目が止まる。
 「? ? ?」。
 すかさず渡邊さんが「きつねうどんのこと。『しのだ』なんてメニューに掲げる店は少なくなったねえ」と言葉を挟む。伝説のきつねが、現在の大阪府和泉市にある信田の森に住んでいたことが由来という。細めの麺と甘みがある油揚げを使った素朴な味だ。
 店内には、かつて出前に使っていた「岡持ち」のほか、30~40年前のエアコンや黒電話があり、昭和にタイムスリップしたかのようだ。内外観のレアさに、関東など遠方から訪れる客もいるという。
 しのだは370円。伊勢屋TEL078・361・5963

2020年3月20日付神戸新聞朝刊
(上)が店内のメニュー(下)が名物「しのだ」

 私も伊勢屋さんを訪れ、名物「しのだ」を食べました。説明を受けないと、しのだがうどんとは分かりませんでした。お店の外観、内観とも年季が入りすぎていることに驚くばかりでした。
 最後は神戸市長田区の下町の路地裏で見つけた絶滅危惧店を紹介します。

みかん水なのに、名前は「アップル」

70年近く愛され続ける庶民の味「アップル」

 路地を歩く。お好み焼き店のソースの匂いに誘われ店内へ。ラベルのないガラス瓶に入った黄色の飲料水が気になった。70年近く愛され続けるロングセラー「アップル」。中身はりんご水ではなく、なぜかみかん水だ。「こなもんのお供に、お風呂上がりに、この1本」。こんなキャッチフレーズが聞こえてきそうなくらい、神戸市長田区内のお好み焼き店や銭湯には大抵置いてある。時代は変わっても、昭和の風情を色濃くとどめるアップルの製造工場へ向かった。
 「兵庫鉱泉所」(同区菅原通1)。サイダーやラムネなど瓶詰めの清涼飲料水を製造・販売する。うちアップルは年間約15万本作られ、長田、兵庫区を中心に出荷されている。
 瓶に詰めて売って、空き瓶を回収。洗浄して、また詰め直す。廃業した同業者から譲り受けた瓶もあり、形もばらばら。1945~55年ごろの瓶も約200本残っている。代表の秋田健次さんは「父から受け継いだこのやり方を守ってきたから、今がある」と力を込める。
 同社の創業は1952年。当時は周辺に瓶詰めの清涼飲料水を作る業者がたくさん集まっていた。缶飲料やペットボトルの普及で需要は大きく落ち込み、同業者は相次いで廃業した。阪神・淡路大震災では、得意先だった多くの店舗が姿を消した。気付いてみれば、市内で兵庫鉱泉所のみとなった。

 水に砂糖やみかん風味の香料などを入れるだけのシンプルなみかん水。なんで「アップル」と呼ぶのか?
 「ハイカラな神戸に合うよう英語のネーミングにしようとしたら、既に『オレンジジュース』は別の商品に使われていた。だからアップルになった、と聞いたことがある」と秋田さん。「でも…」と続ける。「真相はよう分からんのや」

 次から次へと製造ラインに瓶が流れ、一本一本にアップルが注がれている。その様子を近くで秋田さんが見守る。
 「子どもたちも就職したし、私がやめたら終わってしまう」と口にしながらも、「息子はアップルを大切な庶民文化だと言ってくれた。定年ないしね。下町潤すこの伝統の味を守っていくため、まだまだ頑張るで」。

2018年11月15日付神戸新聞朝刊
みかん水「アップル」

<ド・ローカル>
1993年入社。昭和の風情を色濃くとどめる「絶滅危惧店」はとても好きで、記者時代、よく取材に行きました。生き残りをかけ、「変わる店」「変わらない店」。店主の戦略、闘い方はそれぞれです。「希少」で終わらすのではなく。動植物の絶滅危惧種のように社会全体で守っていけたらいいのに、と日々思っています。

 

#絶滅危惧  #バーガーシティー  #野球カステラ  #アップル  #伊勢屋

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