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「グッパ」でなく「うらおもて」。これが神戸流?の組分けについて

播州人3号です。子どものころ、2組に分かれるときって、どう決めてました? 神戸では「うらおもて」という決め方がある(あった)ようです。その背景を調べた記事を見付けました。取材したのは、この投稿ではおなじみのあの記者でした。


記者が探偵役になって読者からの素朴な疑問に答える企画「はてな?探偵団」に初報は掲載されていました。

公式ルートの読者からの依頼ではなく、記者が子どものころのことをふと思い出したことで調査が始まります。

はてな?探偵団(75)
「うらおもて」神戸独自?
土地柄示すチーム分け法

 「ドッジボールやろう」「じゃあ、チーム分けな。せーの… ♪うーららおーもーて」。―え、「うららおもて」?
 小学六年のときに大阪府吹田市から神戸市北区に越してきた探偵(28)が驚いたのが、遊びなどの際のチーム分けで使われるこの「うらおもて」だった。大阪ではじゃんけんのグーとパーで分かれる「グッパ」が当たり前だったからだ。この不可思議なチーム分け法のことを最近、ふと思い出し、周りの同僚らに尋ねてみたところ、「一体そりゃ何」と、とりつく島もない。もしやこれって神戸の特殊事情だったのか? 
 うらおもてのやり方は、こうだ。遊びの参加者が輪になって向き合い、全員が片手を突き出して「うーらら、おーもーて」と、独特の節回しで言いながら手の甲と手のひらを交互に上に向けてヒラヒラと動かす。最後の「て」のところでどちらかを上にして止め、向きが同じ者同士がチームを組む。

 ▼大半はグーとパー

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 周囲の同僚や友人らに手当たり次第尋ねてみたところ、県外出身者でうらおもてを知る人は皆無。また兵庫に隣接する京都、大阪、鳥取、岡山の各府県出身者も「グッパだった」と記憶していることから、少なくとも近畿周辺では、兵庫県内限定のルールだとみてよさそうだ。そして県内では神戸市のほか、加西、加東、三木市などでうらおもて派がいたが、阪神間や但馬、淡路などそれ以外の地域では大半がグッパ。姫路市でも「石とパー」や「グッパしよか」など、やはりグッパ派だった。
 野外活動などを指導する「mottoひょうご」事務局長で、子どもの遊びに詳しい栗木剛さん(48)は「確かに市南部の中央区や兵庫区、長田区を中心とした局地的なもの、という印象がある」と話す。県内各地の子どもと遊んだ経験のある栗木さんだが、ほとんどの地域は「グーとパーが基本」で、「神戸でも南部の中心地から離れるほど少なくなり、市外ではほとんど見たことがない」と言うのだ。
 ではなぜ神戸だけでうらおもてが根付いているのだろうか。別の専門家に聞いてみたところ、驚くべき説が飛び出した。

 ▼「貿易都市の名残」説も

 「そういえば、パキスタンにうらおもてに似た遊びがあったはず」
 関東のうらおもて事情を調査中、「全国子ども会連合会」(東京)常務理事の宇田川光雄さん(59)が重要な手掛かりを提供してくれた。探偵が「民族遊戯大事典」(大修館書店)という本で調べたところ、パキスタンのは、じゃんけんの一種で三人が合図と同時に手を出し、手の向きが違う一人が勝ち、というものと判明。また、ジャワ島にも同様のじゃんけん方法があることも分かった。
 宇田川さんは「これが貿易など人の行き来を通じて港町神戸に入り、形を変えて広まった可能性もある」と大胆な仮説を提唱。この説を聞いた栗木さんも「神戸は外からの文化を取り入れるのが大好きな土地柄。うらおもてが根付いているのが港のある市南部が中心ということからも、海外由来説はあり得ない話ではない」と興味深そう。
 日ごろ何げなく親しんでいる遊びが、港町神戸の文化的土壌にはぐくまれたもの、という“物語”は何ともロマンチックではないか。

 ▼市内の現状 存続の危機

 現状を調査するため、神戸市中央区の市立湊小学校を訪ねてみた。協力してくれたのは六年二組の児童たち。みんなはもちろん、うらおもて派だよね?
 「グッパ。うらおもてはたまにしかやらない」
 ガーン。衝撃を受ける探偵に、男児(12)が追い打ちをかけた。
 「やりにくいし、どっちが裏か表か分かりにくい」。そんな身もふたもない…。まさかうらおもては廃れてきているのか?
 「最近の子どもは、学校を離れると、外で大人数で遊ぶ機会が少ないので、そもそもグループ分けをする必要がない」と話すのは、長田区出身で自身もうらおもて派だった南馬(なんば)進教頭(50)。「違う学年の子と遊ぶこともほとんどないので、うらおもて文化が継承されていないのでは」とみる。
 図らずも、最後に何とも寂しい現状を知ってしまった。頑張れ、神戸の文化・うらおもて!

 (2007年11月14日朝刊より)

すぐに読者から反響があったようです。
1週間後の紙面にこんなふうに紹介されていました。

チーム分け「うらおもて」反響
九州、東北にもあった!
「チョキ派」からも声

 神戸の珍しいチーム分け法を取り上げた「はてな? 探偵団75」の「『うらおもて』神戸独自?」について、読者から感想や意見が数多く寄せられています。「自分もやっていた」と懐かしむ人をはじめ、「神戸出身ではないが、チーム分けはうらおもてだった」という貴重な証言も。これら読者の声から一部を紹介します。

 ▼周りが知らず寂しい思い 

 子ども時代を神戸市垂水区と北区で過ごし、今は宝塚市に住んでいます。子ども時代のグループ分けはもちろん「うらおもて」でした! 何カ月か前、ふとうらおもてのことを思い出し、川西市育ちの夫に話したところ、「何それ?」と全く知らないようで、びっくりしました。それから周りの人に聞いても誰も知らず、ちょっと寂しい思いをしていました。
 自分の子どももグッパ派ですが、記事にもあったとおり集団遊びをすること自体少ないようで、グループ分けの必要もあまりないようです。
(宝塚市、40代女性)

 ▼お互いに 節、おかしい!

 福岡でも「うらおもて」使っていましたよ。節回しはかなり違いますし、「うーらかおーもーて」と「か」が入りますが…。また、三グループに分けるときは「うーらかおもてか真ん中か」です。「真ん中」は空手チョップのように地面に垂直に立てます。神戸っ子の夫は「真ん中は知らない」とびっくりしていました。節回しについても、お互いに相手の節がおかしい! と以前から言い合ってたんですよ(笑)(神戸市、40代女性)
 ◆宮崎県出身ですが、昔からよく使ってましたよ。節回しは少し違うと思いますが。グッパよりうらおもてでした。(神戸市、30代)
 ◆宮城県出身ですが、子どものころ「うーらーおーもーて」やってましたよ! だから記事を読んで「えーっ」とビックリ。全国的なものだと思っていたのですが…。ちなみに子どもに聞いたらこの辺もグッパだそうです。(篠山市、40代女性)
 ◆仙台でも、「うらおもて」やってました。逆にグッパは知りません。神戸や仙台だけじゃなく案外全国的にやってるのかもしれませんよ。(30代、女性)

 ▼中学に行くとなぜか…  

 僕も中学に上がるときに似たような経験をしました。京都府京丹後市久美浜町出身なのですが、小学校では「チーグー」(チョキとグー)だったのが、中学校に行くといきなり「グッパ」が当たり前になりました。よくチョキを出して、迷惑がられました。
(神戸市、男子大学生)

 ◆探偵のつぶやき

 たくさんのお便り、ありがとうございました。大阪から神戸に越してきて初めてうらおもてを見たときは、その奇妙な手の動きと掛け声(?)にギョッとしたわたしでしたが、今回の調査を通じ、いつの間にか愛着のようなものを感じている自分に気付かされました。
 ところで、九州や東北の一部でもうらおもてが根付いていることは、実は調査中に把握していました。しかし今回は関西に的を絞ることにしたため、やむなく割愛させていただきました。
 また調査中、うらおもてでもグッパでもなく、今回紹介した声にもあるように「チョキとグーで分かれていた」という人も何人かいました。これも地域に何か共通項があるのかどうか、調べてみると面白いかもしれません。また、いつか…。

 (2007年11月21日付朝刊より)

「また、いつか…」と再会をにおわせる言葉で締めくくった探偵の調査でした。
約束は10年以上たって果たされます。

知っとお?手のひら向きでチーム分け
神戸独特「うらおもて」絶滅!?
分かりやすいグッパ主流に 

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 ドッジボールなどの遊びでチーム分けする際、じゃんけんのグーとパー(グッパ)ではなく、神戸には手のひらの向きで決める「うらおもて」という珍しい風習がある―。そんな記事を書いたのは、2007年11月のこと。当時新婚だった私も3児の父となり、上の2人は神戸の小学生。そういや、君たちはうらおもてやってんの? 先日ふと2人に尋ねてみると「一体そりゃ何」と取り付く島もない。11年余りの時を経て、「『うらおもて』神戸ではもう絶滅している説」を検証する。

 3児の父となった元探偵は、愛着すら持ちつつあった「うらおもて」のことを「そういや」と思い出します。

 最初にうらおもてのやり方を復習しておこう。遊びの参加者が輪になって向き合い、全員が片手を突き出して「うーらら、おーもーて」と独特の節回しで言いながら、手の甲と手のひらを交互に上に向けてヒラヒラと動かす。最後の「て」のところでどちらかを上にして止め、向きが同じ者同士がチームを組む、というものだ(07年11月14日付朝刊より)。
 当時の取材では、兵庫県内では神戸のほか、北播地域の一部も「うらおもて文化圏」であることを確認。さらに、東北や九州出身の読者から「自分もしていた」との声が寄せられた。
 記事は07年時点で神戸からうらおもてが消えつつあることをにおわせて終わっている。「グッパの方が分かりやすい」「上級生から継承されていない」などの理由を挙げていたが、とうとう完全に消滅した…?
 今の神戸の小学生は、本当にうらおもてを知らないのか。今月中旬、社会見学で神戸新聞社を訪れた名倉小学校(神戸市長田区)の5年生45人に尋ねると、6人が「聞いたことはある」。しかし、日常的に友人とやっている児童はいなかった。同市西区出身で「うらおもて派」の西海淳博教諭(43)は「そういえば、児童がやっているのは見たことないかも」と話す。
 子どもがいる同級生や妻のママ友、教育現場で働く高校の先輩や母親ら、あらゆるつてをたどったが、ほとんどがグッパで、うらおもてをしているとの報告は皆無。学童保育で1~5年生約80人を預かる原田児童館(同市灘区)の支援員玉川直子さんも「10年近くここで働いているが、見たことがない」と証言する。
 「神戸特有の文化が、いつの間にか見られなくなっていくということには寂しさを感じますね」。11年前にも取材した「mottoひょうご」事務局長の栗木剛さん(59)はそう話す。「中高年の飲み会の場や、懐かしい同窓会の席など、思い出の中にだけほそぼそと残っていくのかも」と栗木さん。「グッパにはないうらおもて独特の哀愁は、そんな酒場の隅に似合っている気がします」
 さよなら、うらおもて。今までありがとう…。

  (2019年2月22日夕刊より)

11年もたって再びへんてこな質問をしてきた記者に、栗木さんも面食らったことでしょう。

記事を読み進めるうちに、その独特の文体で何となく気づいた方もいらっしゃるかもしれません。書いたのは、あの黒川裕生記者です。

先日、広島の地方紙記者に「黒川さんの記事って独特で、おもしろいですね」と突然言われ、その名が兵庫県外にも知れ渡っているのかと驚きました。

黒川記者の文体を扱った以前の投稿はこちら

今回、黒川記者に記事を取り上げる連絡をした際、念のため「続々報」についても尋ねてみました。
やりとりは以下の通りです。

播州人3号「ちょっと教えてくれへん。『うらおもて』の続報の予定ってあんの?」

黒川「えっ?一応ほぼ絶滅したということで…。もしかして、世間ではそんなムーブメントが起こってますか?」

「いや、全然起こってないんやけど。『うっとこ』で取り上げるんで念のための確認なんや。絶滅間際やったら放っとかんと、保存会のようなもんをつくらなあかんのちゃうか、あんな大きに書いたんやから」

「確かにそうですね。そうなれば会長やりましょか」

▢ ■ ▢ ■ ▢ ■

「うらおもて」や「グッパ」などの組分けについて過去の紙面を調べると、名の通った作家のコラムや、大学教授らの寄稿でも取り上げられていました。ネット上でもルーツや分布を調査したものが複数見つかります。

ところで、皆さんは最近組分けする機会ってありましたか。
例えば、勤め先で2グループに分かれるときのことを思いだしてください。
たぶん上司が仕切ったり、反対に若手が気を利かせて調整したりしてませんか。全員が一斉に手を出し合って決めるってなかなかないですね。

掛け声を出し合って組分けをしたのは、せいぜい学生時代まででしょうか(その時もたいていそれぞれのローカルルールで盛り上がるのですが)。だから懐かしがって黒川記者のように調べたくなる大人が多いのかもしれません。

<播州人3号>
1997年入社。子どものことの組分けはグーとチー(チョキ)でした。掛け声は「グーー、トーォ、チィ」。決まらなければ「グッ、トッ、チー」を繰り返して手を出しました。ただ「グッパ」のような呼び名がどうしても思い出せません。「グッチ」のような高級感のあるものではなかったことは確かです。

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