ふるさとを創った1億円。淡路島の金塊と、その後の姿
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ふるさとを創った1億円。淡路島の金塊と、その後の姿

播州人3号です。30年ほど前、国から自治体に一律1億円が託される「ふるさと創生事業」が世間を賑わせました。基金(貯金)などに回す市町が多い中で、淡路島の津名町(現淡路市)が選んだのは「1億円の金塊」展示でした。奇抜なアイデアと受けとめられたようですが、展示施設にはその後370万人以上もの観光客らが訪れました。展示は終了し、金塊は、住民が毎日目にするものに変わり、今も輝いています。

1988~89年、当時の竹下登内閣が地域主体の振興策を後押しするため、地方交付税が交付される全市町・道府県に一律1億円を配分しました。
使い道はそれぞれに任せられたため「バラマキ」という批判の声も上がりました。

正式名称は「自ら考え自ら行う地域づくり事業」。日本一長い滑り台(兵庫県佐用町)や村営キャバレー(秋田県旧仙南村)、純金のカツオ像(高知県中土佐町)などを設けた自治体もありました。

淡路島北部にあった津名町は1億円を担保に金塊を借り受け、町内の観光施設に展示します。
訪れた人は直接金塊に触れることができ、「さわると幸運になる」とも言われて評判を呼びました。
明石海峡大橋が開通した1998年には年間39万人もの観光客がどっと押し寄せました。

明石海峡大橋についての投稿はこちら

そんな金塊に何度か危機が訪れます。
2001年と02年の2度、盗人に狙われました。ともに未遂に終わりましたが、金庫ごと車で引っ張り出そうとする荒っぽい手口でした。

淡路・津名町 「1億」金塊あわや盗難
夜間侵入、金庫倒す

 27日午前2時20分ごろ、兵庫県津名郡津名町中田の産地直売施設「産直淡路島 赤い屋根」で警報装置が作動。警備員が駆け付けたところ、入り口ドアのガラスが割られ、同町が「ふるさと創生」交付金で購入した金塊(重さ53・6キロ、時価7300万円相当)を入れた展示ケース兼用の金庫が、ワイヤを掛けられ倒されていた。中の金庫は無事だった。
 兵庫県警捜査三課と津名西署の調べでは、金庫は高さ170センチ、幅65センチ、奥行き75センチで、重さ約700キロ。警報作動直後、目出し帽姿の人物が運転する白っぽいトラックが、ワイヤを引きずって駐車場から走り去るのを警備員が目撃。金庫周辺にもタイヤ痕が残っていたという。同課などは、何者かがトラックで乗り入れ、ワイヤを結んだ金庫ごと金塊を盗み出そうとしたとみて、窃盗未遂容疑で捜査している。
 同施設では昨年6月にも、入り口のドアのガラスが割られ、同じ金庫にロープが巻き付けられていた窃盗未遂事件が発生。町は被害届を出すとともに、金庫をコンクリート床にボルトで固定した上、熱や振動をとらえるセンサーを設置、さらに施設周囲に車に乗った警備員を二十四時間待機させるなど防犯体制を強化していた。
 金塊は1989年、相場変動に関係なく、いつでも1億円に換金できるという契約で購入。相場が下落した99年に換金された後、あらためて購入した際、63キロから107キロに増量され、現在、同施設と町営公園と2カ所に分けて展示されている。
 今年行われたサッカー・ワールドカップでは、イングランド代表のキャンプ地となった同町が警備費を工面するため一時、売却を検討、ベッカム選手らにも披露されるなど話題を呼んだ。
 柏木和三郎同町長は「金塊が無事で安心した。警備は万全を尽くしてきたつもりだが…。当面は1カ所にまとめて展示する方針だ」と話していた。

(2002年10月28日付朝刊より)

もう一つは、記事中にもあるサッカー・ワールドカップでした。
イングランド代表が津名町をキャンプ地としたのですが、チームは勝ち進み、ベッカム選手らの人気もあって警備費などの財源が足りなくなりました。
苦肉の策として持ち上がったのが「金塊の売却」です。
ただ、さすがに町随一の観光資源には手を付けられなかったようです。
最終的に基金を取り崩して対応しました。

津名町 金塊売却せず
イングランドキャンプ費用
不足分は基金崩す

 金塊は売りません―。サッカー・ワールドカップ(W杯)イングランド代表のキャンプ地、津名郡津名町は14日、同チームの決勝トーナメント進出で不足が確実になったキャンプ費用について、同町のシンボルである“1億円の金塊”は売らず、地域開発協力基金を取り崩して対応することを決めた。
 この日、同町は、警備費用をさらに2080万円増額した本年度補正予算を専決処分で決定。冨岡篤太郎助役が同町議会の全員協議会に報告した。
 同町の試算では、今後1日当たり約200万円の警備費が必要といい、イングランド代表チームが準決勝以上に進出した場合、最大2080万円が必要になるとして、増額を決めた。
 これまで同町は、本年度当初予算にW杯のキャンプ費用として7500万円を計上。しかし、1次リーグの警備費などでほぼ使い切るため、柏木和三郎町長が“1億円の金塊”の売却検討も示唆する発言をしていた。
 冨岡助役は「町民の愛着が強い金塊売却は避けたかった。不足分も予想外に少なく、基金の取り崩しで対処する」と説明した。

(2002年6月15日付朝刊より)

危機を乗り越えてきた金塊に時代のうねりが押し寄せます。
「平成の大合併」です。
津名町を含む津名郡の5町が合併し、2005年4月に淡路市が誕生します。

さすがの竹下首相もこれほど市町村合併が進むことを予想していなかったのでしょうか。それともふるさと創生事業がそれほど長くは続かないと思っていたのでしょうか。
津名町では合併を前に、町の「遺産」について意見が割れます。

津名町1億円金塊 売っちゃえば!?
全町議が売却要望
合併控え「町内会運営基金に」

 兵庫県津名郡津名町が1989年に「ふるさと創生基金」で購入した「1億円の金塊」について、16人の同町議全員が柏木和三郎町長に売却を求めていることが11日、分かった。4月1日に郡内四町と合併し「淡路市」となるため、町議らは「新市全体の財産になる前に、処分して町内会の運営基金にすべき」と主張。17日の町議会で正式に申し入れる。
 金塊は、柏木町長が当時、「基金の使い道が決まるまでの一時策」との名目で、自治省(現総務省)の反対を押し切り、観光資源の乏しい町をPRしようと63キロ分を購入。その後、金相場の変動を利用して買い足し、現在は約53キロの金塊が2本ある。業者とはいつでも1億円で現金化できる特約を結んでいるという。
 じかに手で触れられるよう展示している町立公園には16年間で計約360万人が訪れ、2002年に町内でキャンプしたサッカー・イングランド代表のデイビッド・ベッカム選手らにも披露された。窃盗未遂にも2度遭っている。
 町議会の松本英志議長は「集客は鈍っており、役割は十分果たした。新市全体の財源にされるのは基金の目的にそぐわない。ただ、今の町単位で使える保証があるなら展示継続には反対しない」と話す。
 これに対し、柏木町長は「“町のシンボル”だけに広く民意を問う必要があり、すぐには売れない」と難色を示しながらも「新市が旧町内の振興に生かすよう、何らかの申し送りは必要だろう」としている。

(2005年3月12日付朝刊より)

「身勝手」ととらえられそうですが、身近な町のシンボルが合併によってどうなるのか心配する気持ちも理解できます。

金塊は合併後も展示され続きましたが、とうとう終わりの時を迎えます。
原因は金の高騰と、観光客の減少でした。
役割を終えたと判断され、展示は2010年5月に終了しました。

1億円金塊の展示終了
20年間で377万人
見学あす返還セレモニー

 淡路市志筑、静の里公園で公開していた「1億円金塊」のレンタル展示が、13日に終わった。きらびやかな姿を最後まで見届けようと地域住民らが訪れ、まちのシンボルとの“別れ”を惜しんだ。市は15日、同公園でセレモニーを開き、金塊を金属メーカーに引き渡す。
 金塊は「ふるさと創生事業」で全国の市町村へ配分された1億円を旧津名町が活用し、金属メーカーの三菱マテリアル(東京都)から63キロをレンタルして展示。旧5町合併後も展示を続け、金の相場に応じて重さを増減してきた。現在は約54キロで、価値は約2億円に高騰している。
 同公園の年間入場者数は、89年が38万人。98年には最高の39万人に達したが、その後は激減。08年はわずか2万4千人にまで落ち込み、メーカーから重量減または追加保証金を求められたため、市は返還を決めた。約20年間で約377万人が見学した。
 展示最終日のこの日は地域住民ら41人が訪れた。「多くの観光客を呼び込み、淡路島の名を全国に響き渡らせるきっかけになった」と、感慨深げな表情で金塊に触れたり、記念撮影したりしていた。主婦(73)は「見納めに知人と2人で来た。まちのシンボルがなくなるのは寂しい」と残念そうな様子だった。
 午後4時、営業時間が終わると同公園の職員が、金塊を保管する金庫の扉を静かに閉めた。
 15日の引き渡し式は約100人が出席予定。展示が始まった89年に生まれた住民らが金塊をメーカーに返還する。

(2010年5月14日付朝刊より)

20年で377万人。旧津名町の人口が2万人弱だったことを考えれば、立派な数字です。ふるさとをもり立てたと言えるでしょう。

展示の終了後、いったん市の基金に積まれた1億円ですが、淡路市は使い道を全戸アンケートなどで探ります。
その結果、金塊はなんとバスに生まれ変わります。

淡路市 乗れば幸運!?
金色のバス 来月から運行
記念式典で披露

 10月1日に運行を開始する「淡路市南部生活観光バス」の運行記念式典が15日、同市の観光施設「淡路ワールドパークONOKORO」であり、車体を金色にラッピングしたバスが公開された。
 5町合併前の1989年、旧津名町が国のふるさと創生事業を活用した「1億円金塊」。市は基金として残る1億円の一部で、金色のバス1台を導入した。バスの運行経路は事前に明かされないため、市は「運よく乗れれば幸せが訪れるかも」とPRする。
 式では、テープカットでバスをお披露目し、「ゴールデン・ドリームバス」の愛称を発表。家族連れらがバスの前で記念写真を撮り、車内を見学した。
 愛称を考えた男性(72)は「想像以上の輝き。観光コースを走れば絶大なPR効果がありそう」と話していた。

(2019年9月16日付朝刊より)

金塊は返還されましたが、実は今も見学できます。
津名町時代の1989年から2010年5月まで金塊が展示されていた「静
(しず)の里公園」にはレプリカですが、4つの「金塊」が展示されています。
本物なら4億円相当ですが、黄金に輝く金箔の下はアカマツだそうです。

<播州人3号>
1997年入社。ふるさと創生と金塊はなかなか結びつきません。もしも当時の津名町担当だったら、1億円を金塊に使うことにどんな原稿を書いたかと考えてしまいました。町長の提案に、町職員や議会のほか、国からも反対や疑問の声が上がったようです。そんな声をはねのけ、展示に踏み切るとは相当の覚悟だったでしょうね。

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