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新年の味、兵庫ふるさと料理

播州人3号です。今年もよろしくお願いします。2年越しの帰省がかない、ふるさとでご覧になっている方も多いのではありませんか。広い兵庫にはその地ならではの正月料理があります。今回は元日の投稿らしく、おめでたい味を紹介しましょう。

神戸新聞には神戸や淡路、但馬、姫路など12の地域版があります。
細かく地域を分け、手厚く取材しているが故に、地域版はnote投稿向けのネタの宝庫です。

電子版「神戸新聞NEXT」でも各地域版がご覧になれます。

まずは餅の形から味付けまで各地で異なる雑煮です。
関西と関東を比べる際によく取り上げられますが、兵庫県北部の但馬地域に限ってもバリエーションは豊富です。
「但馬のギモン」と題して2019年元日の但馬版に掲載されていました。

赤みそ?ぜんざい?おわんの中は?
お雑煮 豊かな食文化 境界線 分からぬまま

 新年、明けましておめでとうございます。平成最後のお正月、いかがお過ごしですか? 正月といえばお雑煮。豊岡市竹野町には、地元の上質なノリと丸餅だけを入れた、赤みそ仕立ての雑煮があると聞きました。「では、他の地域は?」。調べてみると、何ということでしょう! 白みそに小豆ぜんざい、すまし。但馬には、想像以上に豊かな食文化の世界が広がっていました。
 赤みその雑煮を教えてくれたのは、竹野町竹野の花房順子さん(69)。じゃこだしで丸餅を煮込み、赤みそで味付け。真冬に採って干した岩のりを火であぶり、ふりかけたら完成だ。「このあたりでは昔から、各家でみそを造っていました。のりは、12月に採れるものが一番香りがいい」。すがすがしい磯の香りは、竹野ならでは。豊岡市千代田町の40代女性の元日は、合わせみそで丸餅を煮込み、かつお節を振りかけたものか、鶏肉などが入ったすましのいずれかが食卓に。2日は何と「小豆ぜんざい」。雑煮がぜんざいなんて、初めて聞いた。

▼西の県境

 ほかはどうだろう。まずは西の県境を調べよう。新温泉町などで開かれた、山陰海岸ジオパークの懇談会場で尋ねた。
 鳥取砂丘のガイド、鳥取市の山根奈津子さん(56)も「小豆雑煮」だ。粒あんを水で溶き、甘みを出す塩を入れ、餅を入れて丼鉢で。「雑煮と言えばこれしか知らない」。豊岡市竹野町羽入のジオカヌー指導員笠浪幸壽さん(69)も「ぜんざい」で、譲り葉に小豆を添え、神様にも供える。
 鳥取市に隣接する新温泉町はどうか。同町飯野出身の県職員、村尾久司さん(51)は「白みそベースに丸餅」で、小皿に黒豆を添える。同じ町内でも、旧浜坂町出身の新温泉町議、平澤剛太さん(45)は「カツオ仕立てのすまし汁に丸餅」で、鶏肉やニンジンが入るという。

▼香美町

 次は香美町だ。棚田で有名な同町村岡区板仕野の岡田奈智子さんは、西宮市出身。「すまし汁に丸餅二つ」で、飾りかまぼこや鶏、ユズも入る。同町小代区水間の岡田正貴さんも「すまし汁に丸餅」で、上にカツオやサバの削り節をパラパラとかける。「板仕野では、だしと餅、かつお節だけと聞いた」という。
 同町香住区三谷の発酵食品会社「トキワ」で昨年12月にあった料理教室では、同社の調味料を使うすまし仕立ての雑煮を紹介。同区在住の女性社員は「うちは白みそではなく、『合わせみそ』。家庭によって、本当にいろいろですよ」

▼南但など

 東や南但地域はどうか。京都府京丹後市の人は「白みそではなく、普通のみそ」「合わせみそ」と回答。養父市大屋町在住で、天然温泉「まんどの湯」の鎌田薫副支配人(63)は、「合わせみそに丸餅、ネギ、削り節」。同町周辺は合わせみその家が多いという。
 朝来市生野町口銀谷の生野まちづくり工房「井筒屋」の斉藤敬子さん(69)は白みそで、「おわんに丸餅2個、ゆがいたホウレンソウ、かつお節」。地域にはすまし汁の家も。「生野には銀山やその社宅があったので、関東やいろんな地域の文化が混ざっているのでは」と推測する。

 調査をまとめると、但馬地域には「赤みそ」「ぜんざい」「白みそ」「すまし仕立て」「合わせみそ」が混在しているようだ。しかし、境界線は分からない。「谷ごとに言葉が変わる」とも言われる但馬。多彩な食文化は、人の往来や交流の歴史とも密接な関係がありそうだ。

(2019年1月1日付朝刊より)

その地域では「当たり前」ですが、ほかと比べると違いが際立ちます。

兵庫県西部の宍粟市の一部では雑煮の具にハマグリが使われます。
いい出汁が出てそうですが、不思議なのは宍粟市は「森林王国」とも呼ばれ、海から遠く離れた場所にあることです。

ハマグリ雑煮
宍粟市千種町
山間部に根付く海の幸

 「ハマグリ雑煮を食べんと、新年を迎えた気にならん」。宍粟市千種町で生まれ育った男性(77)が、すまし汁の雑煮をすする。
 一口食べれば、潮の香りが口に広がる。たっぷりのハマグリは、雑煮の主役であるはずの餅より目立つ。
 全国で多様な地域性を持つ雑煮。県内はみそ味が主流だが、播磨はみそとすまし汁が混在。具材も姫路名産の焼き穴子や家島産干しカレイなど豊富だ。日本中の雑煮を研究した伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さん=奈良県=は「全国的に、その土地で収穫した物を使うのが一般的。山間部でハマグリは、極めて珍しい」と驚く。
        ◇
 年末から宍粟市のスーパーなどには、ハマグリが山と積まれる。「普段はそうでもないのですが、雑煮用としてキロ単位で売れます」とAコープちくさ店(千種町黒土)の店長。
 山深い播磨北西部で、百年以上も続くという海の幸の雑煮。疑問を解くため、県内外32市町に問い合わせた。播磨北西部は東の端で、西は中国山地に沿って岡山、広島、島根県へと続く。瀬戸内や日本海側にはなく、かつての出雲街道を伝って広がったようだ。
 島根県立古代出雲歴史博物館の錦織稔之学芸員は「江戸時代には多くの海・水産物が姫路、大阪方面に運ばれ、ハマグリが運ばれていても不思議ではない」と話す。
        ◇
 「ハマグリなんて正月しか食べられんかったから、何よりの楽しみやった」。湯気の向こうで男性が懐かしむ。その笑顔から、雑煮を作る母親たちの姿が浮かんだ。家族に喜んでもらうため、普段は手に入りにくいハマグリを奮発する。
 「山なのに」ではなく「山だからこそ」。そう考えると、謎が解けたような気がした。

(2012年1月11日付朝刊より)

長い距離を運んでくることを考えれば、ハマグリは今以上に貴重な食材だったはずです。
特別な雑煮を味わいながら、新年を祝う家族の笑顔が目に浮かびます。

雑煮だけではありません。
地域版には、その土地の特産を使った正月料理が数多く紹介されています。

香ばしい風味をもちで固め 
農家の新年飾る一品

 丹念に火を通したもちが滑らかになったころ、香ばしい風味の黒大豆と白大豆が「ザッ」と音を立てて交ぜられた。
 「40年ほど前に、お義母(かあ)さんから教わりました。昔っからのやり方です」と丹波篠山市の女性(63)。火の熱気で額に浮かんだ汗をぬぐいながら笑顔でそう言った。
 正月飾りの一つとして、丹波各地の農家などに伝わる「とじ豆」。最近は手軽に作るため、もちの代わりに小麦粉を使う家も多い、という。
 いった豆を液状のもちで包み、こぶし大に丸めれば出来上がり。うまく形どるには数をこなすのが一番という。
 飾り気のない姿には、「こまめに働く」との願いがこもる。正月には米やくし柿などと一緒に、中国の伝説で不老不死の地といわれる霊山を模したとされる飾り「蓬莱山(ほうらいさん)」に置き、五穀豊穣(ほうじよう)なども祈る。
 しばらくたつともちが固まり、ボールのように硬くなった。「昔、子どもたちが廊下で転がして遊び、大人に怒られたりもしました」と女性。鏡開きの11日か、初めてカミナリが鳴った日に食べるが、割れてしまうと、その年は子宝に恵まれるという。

(2005年1月3日付朝刊より)

同じ丹波地域では「にだい」と呼ばれる料理もあります。

丹波「にだい」
小豆と根菜 素朴な香り

 だし汁で煮込んだ大根と里芋に火が通ったのを見計らって、下ゆでした小豆を合わせる。全体に味が染み込むまで20分ほど待てば、しょうゆ味の根菜類に小豆のほのかな甘みが加わった「にだい」が完成する。
 丹波大納言小豆発祥の地とされる丹波市春日町東中で、冬場になると日常的に食べられていたおふくろの味。寺の行事などでも、世話役が炊き出して振る舞うのが恒例だったという。
 「家庭によって材料や味付けはいろいろ。油揚げやゴボウ、ニンジンを入れたり、調味料の分量も野菜の量に合わせて変わる」と女性(66)。名前の由来は分かっておらず、同じ材料でも「けんちゃん煮」と呼ぶ人もいる。
 かつてはかまどでおこした炭で煮炊きをしていた。「じっくり弱火で煮込める炭火は小豆料理にぴったり。火が余っていると『にだいをしようか』と作ったそうですよ」。懐かしい話を聞いているうちに出来上がり。野菜と豆そのものの素朴な香りが、口いっぱいに広がった。

(2009年1月1日付朝刊より)

海のそばには海産物を使った料理があります。

淡路「こけらずし」
白身魚のそぼろ甘辛く

 酢飯の上にのったそぼろは、ふんわり甘い香りを放つ。一口ほおばると、魚の白身で作ったそぼろは程よい甘辛さ。さっぱりした酢飯の味と見事に調和する。魚の臭みは感じられず、くせのない味が食欲をそそる。
 淡路島の漁師町で親しまれ、正月や祭りのときに作る「こけらずし」。ベラなどいわゆる雑魚を炭火で焼き、骨などを取り除いて白身だけを刻む。いってそぼろ状にしてしょうゆ、みりん、砂糖で味付けし、押しずしの上に盛り付けて完成だ。
 淡路市中田の農家の女性(63)方では、親族の集まりや孫の誕生日など、年5、6回は作るという。夫(68)が近くの海でベラを釣り材料を調達。女性は「食べやすく、おばあちゃんの味として孫たちに人気です」と話す。
 ちなみに昔、みじん切りにすることを「こる」といい、いつしか、このそぼろが「こけら」と呼ばれるようになったという。手間はかかるが気軽に作れて、淡泊な味は子どもから大人にまで好評。島の郷土料理は、今も脈々と受け継がれている。

(2009年1月1日付朝刊より)

同じ海のそばでも淡路島と、姫路の家島ではまた違った料理があります。

姫路・家島「ふくらいり」
ナマコをメバル煮汁と

 播磨灘の新鮮な海の幸に恵まれた島の人たちが、真っ先に郷土の味として挙げるのがクロメバルの煮付けだ。しょうゆと酒で味付けした新鮮なクロメバルは、ヒレが反り返るように立ち上がり、身がはがれやすい。素朴だが、柔らかな身がうまい。
 「ふくらいり」は、その煮汁で、黒ナマコをさっとゆがく。姫路市家島町宮地区の一部の家庭に伝わる一品だ。
 男性(60)は「父から教えてもらった味。普段はめったに食べることはないが、正月の食材としてナマコが手に入ると、この味付けをするのが楽しみ」と、自ら包丁を握る。
 腹を裂き、このわたを取り出す。熱めの湯であくを丁寧に取って1センチほどの厚さに切り、再び湯通しする。すると、切り身がふわっと膨らむ。煮汁の中で軽くゆでたのを温かいうちに口に入れる。ナマコ独特の固さがなく、こんにゃくのような歯応えで、高齢者も楽しめそう。
 男性は「『ふっくら』なのか『福来る』なのか、名の由来は謎だが、メバルもナマコも高級食材。ぜいたくな珍味です」と話す。

(2009年1月1日付朝刊より)

いずれの料理も名前を聞いただけではどんな料理か想像もできません。それほど限られた地域の調理法なのでしょう。
正月、ふるさとの食卓を飾った祝いの料理。注意して見れば、もしかしたら地元の伝統の味なのかもしれません。

<播州人3号>
1997年入社。姫路勤務時代、地域に伝わる食や風習を地域版で取り上げたことがあります。取材チーム内で決めたのは「紙面に未掲載のもの」。取材先探しに苦労するかと思いましたが、「初出」の伝統行事が次々に見つかりました。今回紹介したハマグリの雑煮もその一つです。そんな播州の奥深さは別の機会に紹介したいと思います。

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