かすかな臭いを手がかりに―。警察犬の世界
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かすかな臭いを手がかりに―。警察犬の世界

神戸新聞公式「うっとこ兵庫」

行方不明者の捜索や容疑者追跡などで活躍する警察犬。刑事ドラマにもよく登場します。厳しい訓練を受けた精鋭ばかりですが、採用される仕組みなどは広く知られていないでしょう。そんな警察犬の世界を播州人3号が紹介します。

まずは鋭い嗅覚を持つ「鼻の捜査官」養成の仕組みから。

兵庫県警 「直轄警察犬制度」導入40年
鼻の捜査官 揺るがぬ信頼
科学捜査進歩でも出動増

 兵庫県警が直轄警察犬制度を導入して40年が過ぎ、これまで計56頭が犯罪捜査や不明者捜索に活躍してきた。DNA型鑑定など科学捜査が重視される昨今だが、警察犬の嗅覚への信頼は厚く、出動は過去10年で約250件も増えた。今春も2頭が訓練を始め、「鼻の捜査官」を目指す。
 県警は1973年8月に直轄警察犬制度を導入。一般家庭などで飼育される嘱託犬と違い、神戸市須磨区の訓練所で生涯を送る。訓練所では現在、鑑識課員7人、犬14頭が3交代で勤務する。
 犬種はジャーマンシェパードのみ。警察庁の指定犬種には、コリーやラブラドルレトリバーなどもいるが、同課は「体が大きくて能力の高いシェパードが最適」とする。
 生後半年くらいから訓練を始め、2歳前後で出動する。任務は犯罪捜査と不明者の捜索で、出動件数は2004年度の511件に対し、13年度は789件。警察犬の優れた嗅覚が重視されている。
 訓練内容も変わってきた。課員の腕に防具を着けてかみつかせる訓練は、ここ10年行っていない。通算25年担当する同課警部補(59)は「犬の最も優れた、臭いの識別能力を磨く方が優先」とその理由を話す。
 これまでに表彰された犬は3頭。最近では09年10月、伊丹市内で男が同僚を切りつけた殺人未遂事件で、ガリバー号(当時8歳)が隠れていた男を発見、県警本部長賞を受けた。
 出動できない待機犬は、課員が最期まで面倒を見る。後ろ脚が立たなくなった犬に車いすを製作し、寝たきり状態からボールを追いかけるまで回復した老犬もいたという。
 亡くなった犬は訓練所の慰霊碑の下に埋葬され、42頭が眠る。毎年12月には課員らによる慰霊祭も行われる。
 今春、〝新人〟のヤルク号(雄、8カ月)とヤール号(雄、1歳)の訓練が始まった。初任務はおおむね1年後。警部補は「40年という伝統を大事にし、優秀な警察犬とともに住民の安全、安心のために精進したい」と話している。

(2014年4月30日夕刊より)

兵庫県警の直轄警察犬訓練所は神戸市須磨区にあります。

訓練所内には、任務をまっとうした警察犬の眠る慰霊碑もあります。

「人犬一体」の訓練の成果はたびたび紙面でも扱われています。

養父で不明の86歳男性発見
警察犬ゾロ号に表彰状 南但馬署

 県警鑑識課の警察犬ゾロ・フォン・ヤマト・モリヤ号にこのほど、南但馬署が表彰状を贈った。養父市内で行方不明になった男性(86)を捜索し、無事発見したことが評価された。
 ゾロ号はジャーマンシェパードの雄で7歳。2015年10月から警察犬として任務に参加し、今年4月末までの出動は546件。表彰は7回目になる。昨年3月からは同課の巡査長(33)とペアで任務に当たっている。
 同署によると、男性は今年5月14日午後2時~3時半ごろに外出して行方不明になり、近隣住民が探しても見つからなかったため、家族が15日午前10時すぎに同署に届け出た。同署は署員を現場に派遣し、同時に警察犬とヘリの出動を要請した。
 ゾロ号は午後0時50分に男性の自宅に到着。サンダルのにおいを手掛かりに捜索を始めた。巡査長は「あまり迷いはないようだった」といい、約25分後に自宅から東へ約1キロ離れた山中で発見した。男性は山菜採りをしていて山中で転倒した可能性があり、肋骨ろっこつを折る重傷だった。
 表彰式では、同署の藍原達也署長が表彰状を贈り、巡査長は「よくやった」とたたえた。藍原署長は「素早く見つけてくれてよかった。山菜採りなどで山に入る場合は家族に声を掛け、万が一に備えて携帯電話も持っておいてほしい」と呼び掛けている。

(2021年6月7日付朝刊より)

7回目の表彰とは輝かしい実績です。
行方不明者の発見だけでなく、わずかな臭いを手がかりに容疑者逮捕に貢献した犬もいます。

傷害容疑の高校生逮捕に貢献
警察犬アルゴ号に感謝状 神戸西署

 傷害容疑の男子高校生の逮捕に貢献したとして、神戸西署は6日、県警鑑識課の警察犬「アルゴ号」(3歳、雄)に署長感謝状を贈った。警察犬による容疑者の発見は、県内では約10年ぶりのお手柄という。
 同署によると、9月19日午前3時20分ごろ、神戸市西区の公園で、男性が背中をナイフで刺される傷害事件が発生。知人の高校3年の男子生徒が現場から逃走したとみられ、アルゴ号は約2時間後、生徒の靴下のにおいを頼りに現場から追跡を始めた。約30分後、北東約500メートルのため池付近で発見。同署が生徒を逮捕した。

(2021年10月7日付朝刊より)

そんな優秀な兵庫の警察犬ですが、任務中にまさかの事件が起きます。
前代未聞の「逃走」でした。

福崎の山中 警察犬逃走
兵庫県警、不明者捜索中

 25日午後1時半ごろ、兵庫県福崎町田口の「七種なぐさ山」の山中で、行方不明者の捜索に当たっていた警察犬1匹が、県警鑑識課員が持っていたリード(引き綱)を振り切って逃げた。同課などが捜したが、日没までに見つからなかった。
 同課によると、シェパードの雄の「クレバ号」(2歳)。体長約120センチ、体高約70センチで、茶色と黒が交じった体毛。昨年7月末に警察犬となり、県警の直轄犬計11匹の中で最も若いという。
 同山では同日午前8時半ごろ、登山道の入り口付近の「不自然な所に車が止まっている」と、近くの交番に届け出があった。福崎署が調べたところ、21日から行方不明の明石市の女性(54)の車と判明。捜索のためクレバ号ともう1匹の警察犬計2匹が投入された。行方不明の女性については、もう1匹の警察犬が、山中で倒れているのを発見。女性は既に死亡していた。同署が死因などを調べる。
 26日もクレバ号を捜索する予定で、同課は「もし見つけたら、近づかずに通報して」と呼び掛けている。

(2020年10月27日夕刊より)

失踪から2日後、クレバ号は無事見つかりました。
現場から約100メートル離れた場所で、リードが木にからまり、動けなくなっているところを、捜していた警察官に確保されました。

規律を重んじる警察組織ゆえにクレバ号にも厳しい処分が下されると予想されていましたが、寛大な措置がとられます。
全国から寄せられた温かい声が後押ししたからかもしれません。

失踪の警察犬 もう逃げない
兵庫県警の「クレバ号」
全国から激励、3カ月猛特訓で現場復帰

 兵庫県警は、昨年10月に行方不明者の捜索中に失踪し、2日後に発見された警察犬「クレバ号」(2歳、オス)を4日に現場復帰させる。保護された後、3カ月間訓練し、以前より指示に従うようになったという。
 クレバ号は全長約120センチのシェパード。昨年10月25日、兵庫県福崎町の山中で行方不明者を捜索中、鑑識課員が持っていた約5メートルのリード(引き綱)を振り切って失踪した。2日後、失踪地点近くで、木にリードが絡まり動けなくなっているところを発見され、無事保護された。
 その後、神戸市須磨区の県警直轄警察犬訓練所で再訓練し、「待て」「持ってこい」といった指示に従う基本動作を再び教えた。山中や街中、ほかの警察犬の出動現場にも連れて行った。体重は約31キロから2キロほど減り、顔立ちがたくましくなったという。
 県警は訓練士や獣医師から意見を聞き、落ち着いており体調も万全なことから復帰が可能と判断した。クレバ号はデビュー後1年足らずで行方不明者を4回発見するなど実績のある警察犬。県警鑑識課は「これまで以上に活躍してほしい」と期待する。
 県警によると、全国から県警に「無事に見つかってよかった」「これからも警察犬として活躍することを応援しています」など激励のメールや電話が約90件届いていた。
 県警は今回の失踪を受け、出動する警察犬に衛星利用測位システム(GPS)が付いた首輪を装着しており、クレバ号にも同様の措置をする。

(2021年2月4日付朝刊より)

現場に復帰したクレバ号は目覚ましい活躍をとげ、県民の期待に応えます。
3度目の表彰時の記事です。

一時逃走で〝有名〟に、その後は活躍続く
クレバ号に3度目感謝状

 行方不明者の早期発見に貢献したとして、神戸西署は16日、県警鑑識課の警察犬「クレバ号」(2歳、雄)に署長感謝状を贈った。クレバ号は昨年10月、捜索現場の山中で一時逃走し、訓練を経て今年2月に現場復帰。その後、署長感謝状をもらうのは3度目という。
 クレバ号は体長約120センチ、体高約70センチのシェパード。昨年10月25日、福崎町の山中で行方不明者を捜索中、鑑識課員が持っていたリード(引き綱)を振り切って逃げた。
 2日後、逃走地点近くの木に、リードが絡まって動けなくなった状態で見つかり、無事保護された。
 神戸西署によると、クレバ号は6月7日午前、家族から行方不明者届が出されていた西区の70代男性を発見。男性が使っていたタオルのにおいを頼りに男性の自宅から約2キロ捜索し、約40分で見つけ出したという。
 同署の仁科年正署長はドッグフードなどを贈呈し、「行方不明の高齢者は早期発見しないと命に関わる。署員一同感謝している」とねぎらった。クレバ号はご褒美の骨ガムにかぶりついていた。

   ▢ ■ ▢ ■ ▢ ■ □

警察犬にはクレバ号のような直轄警察犬のほか、非常時に出動する民間の「嘱託犬」制度もあり、このような仕組みになっています。

警察犬9割 民間頼み
臭い選別、足跡追跡
難関試験クリア
普段はペット
事件発生いざ出動

 人間の数千倍以上とされる鋭敏な嗅覚を生かし、犯罪捜査や行方不明者の捜索活動を支える警察犬。全国で、警察が直接飼育・訓練する「直轄犬」よりはるかに多く、非常勤で出動する民間の「嘱託犬」が活躍しているのをご存じだろうか。普段はペットで、要請があれば現場に駆け付ける―。まるでアニメや映画のヒーローのようで、屈強な体格の犬がそろっていそうだが、そんなイメージを覆す〝練習生〟も兵庫県内にいるという。
 警察庁によると、2017年末時点の直轄犬の数は、24都道府県警が保有する157頭。このうち兵庫県警は11頭で、刑事部の鑑識課に所属している。一方、民間が飼育する嘱託犬は全警察犬の約9割に当たる1214頭。通常1年契約で、兵庫県は25頭だった。
 嘱託犬となるには、各都道府県警が行う審査会で試験に合格する必要がある。兵庫県では試験は2種目。台の上に置かれた複数枚の布の臭いをかぎ分ける「臭気選別」と、犯人の逃走ルートや遺留品の発見を目指す「足跡追及」がある。
 嘱託期間中も、普段は自宅や、飼い主らの依頼で訓練をする民間業者の施設で過ごす。兵庫県では、直轄犬が出払っていたり、直轄犬より早く現場に到着できる場合などに出動要請を受け、昨年1年間に行方不明者の捜索で13回出動した。
 11月上旬、西宮市上之町にある民間の「武庫川警察犬訓練所」で、体長約30センチの小型犬が元気に駆け回っていた。12月に実施される警察犬審査会で合格を目指すチワワの「小太郎」だ。
 18年度の嘱託犬が選ばれた昨年の兵庫県警の審査会には約110頭が参加し、30頭が合格。いずれもシェパードかゴールデンレトリバーで、過去にも合格した小型犬はいないという。
 小太郎は約6年前、同訓練所でペットとして飼っているチワワの子として生まれた。所長(56)が「嫌がればやめよう」と軽い気持ちで訓練を始めたが、次第に「冷静で努力家の性格が向いている」と感じるようになったという。
 同訓練所には現在7頭の嘱託犬がいるが、いずれも犬種はシェパード。所長は「小型犬は体力も、臭いの記憶力も劣るが…」と小太郎を前に本音を漏らすが、臭気選別などで競う民間の競技会で優勝を重ねるなど、着実に実力を付けているという。兵庫初の小型警察犬が誕生するか―。

(2018年11月17日夕刊より)
「臭気選別」の訓練をする小太郎

〈警察犬〉警察の犯罪捜査や行方不明者の捜索で出動する犬。全国での出動は年間1万件を超える。日本警察犬協会は警察犬に適している公認の犬種として、ドイツシェパードやラブラドルレトリバー、ドーベルマン、コリーなどの7種を挙げている。犯罪捜査などを担う刑事部門の警察犬のほかに、災害現場の生存者捜索や爆発物捜索、犯人制圧に当たる警備部門の「警備犬」も活躍している。

チワワや柴犬 広報にも一役

 兵庫県ではまだ小型の警察犬は誕生していないが、これまでに全国では、数は少ないながらもトイプードルやチワワなどが嘱託犬として活躍。愛らしい姿を武器に、広報にも一役買うなど存在感を発揮している。
 草分け的存在となったのは、2010年に和歌山県警に採用されたミニチュアシュナウザーの「くぅ」。既に引退したが、訓練所にファンが詰め掛けるほどの人気ぶりだった。11年には奈良県警の審査にロングコートチワワの「桃」が合格し、海外のテレビ番組でも紹介された。
 12年に鳥取県警から嘱託を受けたトイプードルの「カリン」「フーガ」の2匹は、現在も広報活動を担い、交通安全教室で子どもたちと一緒に横断歩道を渡るなど親しまれている。同県警は「小型犬は狭い場所を得意とするほか、街中の捜索では周囲に威圧感なく活動できる」と利点も説く。
 過去にはほかにも、殺処分になる直前で訓練士に引き取られ、審査会に合格した茨城県警のトイプードル「アンズ」▽日本犬では初の警察犬となった岡山県警の柴犬「二葉」▽熊本県警のミニチュアダックスフント「ベッキー」―などが話題となった。
 こうした状況もあって、犬の訓練士らを養成する「神戸ブレーメン動物専門学校」(神戸市中央区)では小型犬を使った実習にも取り組んでいる。多様な犬種に対応できるよう、生徒がチワワなどで「臭気選別」の訓練をしているという。

(2018年11月17日夕刊より)

チワワではありませんが、テリアが嘱託犬に任命されていました。

県警、14年ぶりテリア任命
かわいい顔で敏ワン警察犬

 シェパードやラブラドルレトリバーが主流の兵庫県警嘱託警察犬に、日本では愛玩用に飼われることが多いエアデールテリアが14年ぶりに採用された。12日、他の21頭とともに県警本部(神戸市中央区)であった嘱託書交付式で任命された。
 兵庫県市川町の訓練士(63)が訓練したニュートン号(雄4歳)。1月に開かれた審査会に出場し、五つの臭いから捜索対象の臭いを探す臭気選別部門で優秀な成績を収めた。
 エアデールテリアは英国で川辺の猟犬として生み出された。「テリアの王様」といわれ、同種の中では最も大型で、長い体毛やかわいい顔つきが特徴だ。
 任期は1年。今後、飼い主と暮らしながら県警の要請を受けて行方不明者の捜索などを行う。4回目の挑戦で難関を突破した訓練士は「まじめな性格だから本番でも活躍してくれるはず」と話していた

(2014年3月13日付朝刊より)

牧畜犬と知られるコーギーが任命されたこともあります。

コーギー犬 警察犬に
兵庫県警で初、嘱託状を交付

 兵庫県警の要請を受け出動する嘱託警察犬25頭への嘱託状交付式が27日、神戸市中央区の県警本部であった。4月1日から1年間、行方不明者の捜索などで活動する。
 県警の直轄警察犬が出動できない場合、一般の人や民間の訓練を受けた犬などが活動する。2018年は、行方不明者の捜索などで警察犬が出動した874件のうち、嘱託犬の出動は10件だった。昨年12月に三木市で行われた審査会に参加した109頭のうち、捜索対象者の経路をたどったり、遺留品を発見したりする「足跡追及」と、においをかぎ分ける「臭気選別」の試験を通過した25頭が選ばれた。
 交付式で、鑑識課の真鍋克巳課長が指導員と飼い主らに嘱託状を手渡した。真鍋課長は「広い兵庫県をカバーするには、皆さんの力が不可欠。今後も実践的な訓練を続けていただきたい」と話した。
 県警で初めてコーギー犬の嘱託警察犬になった「コムギ」の指導員(30)は「嘱託犬に選ばれてうれしい。コムギは真面目で丁寧なので、出動の際もがんばってほしい」と話した。

(2019年2月28日付朝刊より)

街中で警察犬に出合うことはそれほど多くはないでしょうが、活動を見かけたときには直轄犬か嘱託犬かなど想像を巡らせてみては?

<播州人3号>
1997年入社。全国大会で入賞した嘱託警察犬を取材したことがあります。驚いたのは、臭いの識別能力の高さだけでなく、訓練後に飼い主に甘える姿でした。厳しい訓練と飼い主とのなごみの時間。激務の警察犬にもオンとオフが必要なんでしょう。

#警察犬 #クレバ #逃走 #シェパード #チワワ #コーギー

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また見てください。新緑の相楽園(神戸市中央区)です(2020)
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