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動きだした巨大観音像

淡路島に巨大な観音像があるのをご存じですか。アメリカの「自由の女神」を抑え、高さで一時、世界一に輝きました。一般公開が中止されて久しく、外壁がはがれ落ちるなど危険性が指摘され、解体に向けた工事が始まっています。そもそもなぜこんなノッポ観音像が淡路島に誕生したのでしょうか。播州人3号が紹介します。

観音像があるのは淡路島の北側です。
国道沿いの丘陵地に大阪湾を見下ろすようにそびえ立ち、島のランドマークとしても知られています。
完成は40年前の1982年7月。盛大に開眼法要が行われました。
当時の記事です。

1982年7月3日夕刊

最近の紙面では「世界平和大観音像」と呼んでいますが、当時は「ジャンボ観音像」「ノッポ観音像」などと表現されています。

像の高さは78・6メートル。台座のビル(地下1階~地上5階)の高さ(22・6メートル)と合わせると、101・2メートル。鉄骨の骨組みにセメントを吹き付け、頭の部分は特注のアルミ板を貼り合わせています。
内部にエレベーターが備えられ、胸部に開けられた展望台まで上れたようで、台座部分(5階建て)には美術館や売店、レストランもあり、賑わいました。

当時、米ニューヨークの「自由の女神」像が世界一の高さを誇りましたが、それを抜いたとあります。
そのためでしょうか、敷地内には自由の女神像があるといいます。

観音様見守る自由の女神
淡路市釜口

 あれれ、なぜこんなところに? 深緑のやまやまを背景に大阪湾を見下ろす淡路市釜口の丘陵地。雑草が生い茂る中、ひっそりとたたずむのは、なぜか「自由の女神」。
 実はここ、保存か撤去か物議を醸している所有者不在の「巨大観音像」の敷地内。1983年の観音像設置後、当時の所有者が傍らに女神像を置いたらしいが、何のためかは不明という。
 世の中を救済する観音様を後方から見守る高さ約9メートルの女神像。右手にたいまつ、左手には米国の独立記念日を記した銘板を持つ。眺めていると、全くゆかりのない“2人”が並んで海を見下ろす姿は、ほほえましくも見えてくる。

(2009年6月17日付朝刊より)

驚くことに、この巨大観音像は個人の建造です。
淡路島出身の大阪の男性が建てました。
町長らも出席した法要で、施主の男性は「十数年来の構想がようやく実現し、うれしい。地域の文化、観光の発展に少しでも役立ちたい」と語っています。ふるさとへの熱い思いが観音像建立の背景にあったことがうかがえます。

ただ、個人で建造したことが、その後の管理に大きく影響します。
男性が6年後の1988年に他界し、観音像は男性の家族にいったん相続されます。ただ、その家族も2006年に亡くなり、施設は閉鎖。観音像は相続されないまま所有者が存在しない状態が続きます。

管理が行き届かなくなると、安全面から「解体」や「撤去」が議論されるようになりました。

淡路のランドマーク
巨大観音どうなる
買い手なし、撤去には数億円―
対応に市苦慮 鉄骨むき出し危害懸念

 保存か、撤去か―。3年前に閉鎖し、老朽化が進む「世界平和大観音像」(淡路市釜口)。高さ約100メートル。島のランドマーク(目印)として知られるが、所有者が存在せず放置されたままで、淡路市が対応に苦慮している。市内部の検討委は7月末の現地調査で、本体のはく離を確認した。だが、撤去には数億円が必要で、同委は「民間施設に市税は使えない」との意見で一致。一方、保存しようにも買い手が見つからず、決め手は見つかっていない。
 観音像は、大阪湾沿いを走る国道28号沿いの丘陵地にそびえる。胸部の窓枠(展望台)周辺のコンクリートがはがれて鉄骨がむき出しになっている。近くの「十重の塔」も屋根の銅板がはがれ、損傷が激しい。
 周辺には約100世帯が住み、地元町内会は2006年と08年、対応を求める要望書を市に提出した。3年ほど前から、塔の銅板が強風で落下したこともあり「事故が起きる前に何とかしてほしい」と訴える。
 観音像は同市出身で大阪府在住の男性が建てたが、1988年に死亡し、家族が相続した。その家族も2006年に死亡して施設は閉鎖。その後は相続されていないため所有者は存在していない。債権者が06~07年に計3回、土地や観音を神戸地裁で2300万円で競売にかけたが、入札参加者はなかった。
 同市は「現在、所有者がおらず、債権者に維持管理の責任がある」と指摘するが、債権者は維持管理者に該当しないため施設の修繕など法的義務はないという。
 建築基準法に基づいて建物に崩落などの危険がある場合、行政指導権をもつのは県だが、淡路県民局は「維持管理者が明確でないと勧告できない」。国土交通省も「観音像が倒壊し、国道が通行止めになるなどの被害が出た場合は対応できるが、現状では手を打てない」とする。
 同市は5月に設置した検討委で、今後の方針として、撤去▽保存による再利用▽現在のまま保存して修繕―の3案を提示。その中で「買い手を見つけ、施設を何らかの形で再利用してもらうのが最善策」との方向性を打ち出している。
 所蔵品の状況を確認するため、県に協力を要請した上、観音像の内部を近く立ち入り調査したい意向だ。「行政の管轄外だが、住民に危害が及ぶ可能性があるので、何とか解決策を見つけたい」としている。

(2009年9月3日付朝刊より)

とうとう心配されていたことが起きます。

観音像の外壁一部崩落
淡路、台風11号の影響か
高さ100メートル、06年から放置状態に


 淡路市釜口に放置されたままの「世界平和大観音像」の外壁の一部がはがれ落ち、穴が開いた状態になっていることが、分かった。10日に兵庫県内を縦断した台風11号の風雨が原因とみられるが、老朽化が著しいため、付近の住民らは観音像のコンクリート片の崩落などを心配している。
 観音像は1983年、国道28号沿いに設置。高さ約100メートルのコンクリート製で、台座部分が5階建てになっている。所有していた同市出身の男性が亡くなり、相続した家族も死亡し2006年から放置状態に。11年に同市が内部調査し、入り口を封鎖した。
 観音像の損傷箇所は地上約60メートル付近で、1~2メートル四方の壁がはがれ落ち、地上からでも内部の空洞が見える。
 市は台風被害を調査していた10日昼ごろに確認。コンクリート片が台座付近の草むらで粉々になっていた。管財人の大阪の弁護士に連絡し、写真と文書で現状を報告したという。
 近くに住む釜口連合町内会の元会長(61)は「開いた穴から雨水が入ってさらに腐食が進む。一日も早く解体しなければ不安な日々が続く」と困惑。市は「市民の安全確保が最優先だが、市の持ち物でないので手が出せない。新たな買い手が見つかればよいのだが」と対応に苦慮している。

(2014年8月29日付朝刊より)

4年後の台風による風雨で穴は2カ所に増えました。

そして、ついに撤去が決まります。
所有者がおらず、国が解体業者を公募し、大阪市の建設会社が落札しました。契約金額は8億8千万円でした。

ドローンを使った観音像の動画はこちら

巨大な観音像をどうやって解体するのでしょうか。

淡路「世界平和大観音像」どのように撤去?
頭から解体、破片は像内部空洞へ
強風と粉じん対策両立

 淡路市釜口にあり、10年以上放置されて劣化が進んでいる「世界平和大観音像」を解体撤去する工事の方法が11日までに固まった。高さが約100メートルある像の頭部から下へ順に、白色のモルタル外壁を小さく切断し、像内部の空洞へ落とす方針。粉じん対策にも万全を期す。14日から現場で準備作業が始まる。
 国から工事を請け負う大阪市の建設会社によると、8月まで草刈りや現地事務所の設置など準備を行い、9月以降、像を囲む足場を設けて解体する。頭部から下へモルタル外壁を撤去後、むき出しになった内部の鉄骨は、切断してクレーンで地上へ下ろす。2022年2月ごろまでに像を解体後、台座部分も壊す。地下部分と基礎も撤去し、23年1月の工事完了を目指す。
 粉じん対策にも配慮する。像の全面をシートで覆うと強風時に危険なため、作業部分をメッシュ状のシートで囲むなどし、安全性と環境対策を両立させる。
 管轄する財務省近畿財務局と建設会社が既に、地元住民に工事の説明会を開催。釜口地区連合町内会長(63)は「住民が心配する騒音やアスベストには、万全に対処するとのことだった。要望していた工事がようやく始まる」とし、「跡地利用では住民の希望を反映させてほしい」と話す。
 像は1982年に淡路市出身の男性が建て観光名所となったが、88年に男性が死亡。相続した遺族も2006年に亡くなり、放置されて外壁に穴が開くなど危険な状況となっている。昨年4月に国有となり、解体が決まった。

(2021年6月12日付朝刊より)

冒頭に掲載した、観音像から光線が発せられたような写真はちょうどこのころの撮影です。「観音像からビビビッ!?」という見出しで掲載され、ビームのようにみえるのは、沖合の関西国際空港に向けて高度を下げる航空機の光跡が、ちょうど観音像の額の高さに重なったところを撮影したためです。「奇跡の光は、最後の御利益だろうか」と筆者が記す通り、その後、解体工事が始まります。

観音像 巨体覆われ 何思う 淡路島

 淡路島の東海岸にそびえ立つ白亜の巨像が、工事用の足場に覆われた。解体撤去工事が進む淡路市釜口の「世界平和大観音像」。像は高さ約100メートル。高層ビルのように周りを囲む足場の中から、頭部と右手だけをのぞかせ、不思議な光景をつくり出している。
 観音像は1982年に観光施設として建造されたが、2006年に閉鎖。長く放置されて老朽化が進み、壁の一部が落下するなどして危険なため、昨年3月に国の所有となり、今年6月から解体工事が始まった。
 財務省近畿財務局などによると、観音像の優しげな表情を拝める期間は残りわずか。現在は高さ約80メートルに位置する像の首元まで足場が組まれ、来年1月下旬までに像全体が覆われる。
 観音像は来年6月ごろまでかけて解体される見通し。さらに、台座なども撤去し、全ての工事を終えるのは再来年の23年2月下旬を予定している。

(2021年12月25日夕刊より)

写真の作業する人と比べれば、像の巨大さに改めて驚きます。
周辺への危険を考えれば解体もやむなしですが、観音さまの表情もどこか寂しそうです。

解体中の観音像をドローンで撮影した動画はこちら

何人かの淡路勤務経験者に尋ねてみると、全員が巨大像を覚えていました。「一度は展望台まで上ってみたかった」「(観光施設が次々に開業している)今の淡路ならもっと人が集められるのでは」などの声もありました。

撤去は2023年2月ごろの完了予定です。跡地の約1万9千平方メートルについては、地元の淡路市が取得の意向を示しています。

<播州人3号>
1997年入社。JR三ノ宮駅前に神戸新聞の本社ビル「神戸新聞会館」がありました。27年前の阪神・淡路大震災で全壊し、跡地に複合商業ビル「ミント神戸」が立ってます。富士山の巨大壁画があり、当時の建物を知る取材先から、出張や旅行からの帰りに電車の窓から壁画を見ると「ああ、神戸に帰ってきた」と感じたという話をよく聞きました。建物や施設には、そこで暮らしたり、働いた人以外の思い出も詰まっているんですね。

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