火揚げ、火祭り、虫送り…。真夏の夜、兵庫で続く炎の行事
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火揚げ、火祭り、虫送り…。真夏の夜、兵庫で続く炎の行事

7月から8月にかけて兵庫県内では火を使った多彩な行事が催されます。夜空を彩る花火ではなく、松明(たいまつ)や、火をつけた麦わらを持った住民らが五穀豊穣(ほうじょう)や無病息災を願います。村単位でひっそりと受け継がれているものや、起源をさかのぼれば戦国時代にたどりつくとされる伝統の祭りも。迫力満点の写真とともに播州人3号が紹介します。

お盆の時期と重なるためでしょうか、先祖供養の願いを込めたものが目立ちます。

火花散らし先祖の霊供養
姫路・破磐神社「奉点燈祭」 

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 松明(たいまつ)で互いにたたき合い、先祖の霊を供養する「奉点燈祭(ほうてんとうさい)」が15日、姫路市西脇の破磐(はばん)神社であった。厄年の男性ら氏子約30人が「エント、エント」の掛け声とともに松明を振るい、豪快に火花を散らした。
 戦国時代、近くの峯相(みねあい)山鶏足(けいそく)寺が豊臣秀吉に逆らって焼き打ちされ、命を落とした僧侶らの霊を慰めるために始まったとされる。一時は途絶えたが、1985年に氏子らが復活させ、今年で33回目になる。
 神事や盆踊り、太市小学校の児童らによる太鼓演奏に続き、午後8時半、神火を高さ約4メートルのとんどに点火。長さ約2メートルの松明に火を移した後、氏子らは舞殿に移動し、威勢よく打ち合った。

  (2017年8月16日付朝刊より)

「エント、エント」と独特の掛け声です。別の記事では、名称の「奉点燈(ほうてんとう)」が縮まったものと紹介されていました。
上の写真をよく見ると、上部に梁や屋根が見えます。屋内だったとは驚きです。

同じ姫路市内ですが、こちらは松明を投げ揚げます。
地上12㍍にある目標を外れれば、当然、炎が地上に落ちてきます。かなり危険そうです。

起源を知れば、天に向けるのもなるほどと納得します。

夜空彩る炎の光跡
姫路・愛宕神社
朝日谷火揚げ

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 姫路市勝原区朝日谷の愛宕神社境内で15日、高さ12メートルの柱の先に松明(たいまつ)を投げ揚げる伝統行事「朝日谷火揚げ」が行われた。
 15世紀末に雨ごいとして始まったと伝わり、毎年8月15日に行われている。柱を立てる作業は全て人力。昔の建築技法が残っており、2009年に姫路市の無形民俗文化財に指定された。
 準備作業は午前8時に始まり、長さ12メートルの杉丸太の先に、直径2・5メートル、深さ3メートルの竹かごを取り付け、軽トラック3台分の麦わらを詰め込んだ。完成した柱は、住民約50人がはしごと「カナツメ」という木の棒だけで押し上げ、約1時間半かけて直立させた。
 午後7時に火揚げが始まると、地区の小学5、6年生約30人が、長さ50センチのわら縄の先についた松明を振り回し、柱の先めがけて投げ揚げた。松明がうまく麦わらの上に乗ると、約300人の観客から拍手と歓声が上がった。

  (2011年8月16日付朝刊より)

姫路市などの播州は「灘のけんか祭り」など勇壮な秋祭りで有名です。言葉遣いや車の運転が少々荒っぽいともされ、だから危険を伴う豪快な内容が多いのでしょうか。

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2019年10月の「灘のけんか祭り」

ただ、火を使った行事が伝わるのは播州だけではありません。
兵庫県北部の温泉街にも「火祭り」という名前で残っています。
由来に天狗が登場し、唱えるはやし言葉に特徴があります。

新温泉町「湯村の火祭り」
豊穣、息災 願う炎の輪 

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 兵庫県新温泉町湯の湯村温泉街で24日、五穀豊穣(ほうじょう)や無病息災などを願う「湯村の火祭り」があった。地元の子どもたちや観光客らが温泉街を流れる春来(はるき)川を囲んで約100本のたいまつを回し、幻想的な光の輪で夜の温泉街を彩った。
 同町の文化財に指定されている伝統行事。日没後、温泉街の正福寺で元火の護摩祈とうがあり、その火が会場へ。待ち構えていた参加者のたいまつに次々とともされた。
 「ジーロンボ、ターロンボ、ムーギノナーカノクーロンボ」。子どもたちが唱えるはやし言葉には高慢な天狗(てんぐ)の次郎坊と太郎坊、麦の黒穂病などを追い払い、自らの心の乱れを鎮めようとの祈りが込められているという。
 たいまつの炎が闇夜に浮かび上がる光景を眺めながら、観光客らは過ぎゆく夏をいとおしんだ。

   (2019年8月25日付朝刊より)

こちらも動きのある祭りです。
ほかの行事同様、炎を扱う祭りは、本紙の「読者の報道写真コンテスト」の定番モチーフにもなっています。

なぜ暑い夏場に炎の行事が集中するのでしょうか。

兵庫県の西部、西播磨の行事について、こんな記事が見つかりました。

松明の炎に豊作や無病息災願い
火祭り西播磨14地域で
河川流域ごとに祭式似通う

 松明(たいまつ)の炎に五穀豊(ほう)穣(じょう)や無病息災などを願う火祭りが今年も、お盆を中心に西播磨各地で開かれる。神戸新聞社が調べたところ、復活行事を含めて少なくとも14地域で確認され、いずれも河川流域ごとに祭式が似通っていることも分かった。

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 いずれも先祖を迎え入れ、送り出す役割があるとされるお盆の火に、別の意味を持たせた行事とみられる。詳しい起源は不明の地域が多いが、はやり病や凶作など地域の悩み事の解決を願ってきたと伝わる。
 地域によって呼び名は異なるが、「万灯」と「火揚げ」は共通する地域がある。万灯はたつの市新宮町の2地区に残り、山上や川辺で火をたく。火揚げは姫路市西部やたつの市御津町に伝わり、麦わらを詰めた竹かごを木柱の先に取り付け、松明を投げ入れる。
 一度途絶えながらも復活した行事も。姫路市広畑区蒲田の「盆の送り火」は害虫駆除も兼ねて続いたが、昭和30年代から1995年まで途切れた。竹に麦わらを巻き付ける松明の制作など準備は負担だが、再開後は休んでいない。自治会長は「準備を苦に思う住民はいない。子どもたちの思い出づくりのためにも続けたい」と話す。
 2003年に西播磨の火祭りを調査したたつの市教委文化財課の義則敏彦さん(51)は、その分布に注目する。「河川の流域ごとに不思議と行事をまとめることができる」。万灯や火揚げは揖保川流域に集中。害虫を駆除する「虫送り」は市川流域、麦わらで舟を作って川に流す「精霊舟」は千種川流域に多いという。
 流域による共通性はなぜ生まれたのか。播磨学研究所の埴岡真弓研究員は「近代以前は川が幹線道路の代わりをしていて、物資はもちろん、文化も運ばれたからでは」と推測する。

  (2012年8月11日付朝刊より)

川を伝って物とともに、文化も行き来したという研究員の指摘は興味深いです。
「あっこの村ではこないしょったど」と競うように取り入れたり、「わしらのとこはこないせなあかん」と独自色を守ったり。そんなやりとりがあったのでしょうか。

次の「虫送り」は農業と関係した行事です。
そのせいか全国に同様の行事が残っています。

多可町・奥中の伝統行事
豊作願って「虫送り」
たいまつ掲げ農道練り歩き

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 多可町中区奥中で1日夜、田んぼの害虫を追い払って豊作を願う伝統行事「奥中虫送り」が行われた。たいまつを手にした地元住民ら約100人が、かねや太鼓の音と共に農道約1・5キロを練り歩いた。
 田植えを終えて稲の成長を見守る時期に、害虫を地域の外に追い払おうと、たいまつを持ってあぜを歩く行事。かつては全国で行われた。一時途切れていた同地区では1985年のほ場整備を機に復活させたという。この日は昼から、近くの山林で竹を伐採してたいまつ作り。午後7時を過ぎると、近くの大歳神社でとった神灯でたいまつに火を入れ、稲の株につまずいて討ち取られたという平安末期の武将斎藤実盛を模した人形を担いで出発した。
 子どもたちが「実盛さんはご上洛、稲の虫どもお供せい」と声を張り上げる中、すげがさをかぶった男性らが「村内安全」などと書いた旗を手に太鼓を打ち鳴らして行進。一帯は神秘的な雰囲気に包まれた。

  (2017年7月3日付朝刊より)

ほかにもまだ紙面で取り上げられていました。写真で紹介します。

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養父市の「三宅の万灯さん」(2017年8月26日付朝刊より)

蒲田盆の送り

姫路市広畑区・八幡地区の「盆の送り火」(2016年8月17日付朝刊より)

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姫路市網干区・垣内地区の「火揚げ」(2018年8月19日付朝刊より)

いかがでしたか。こうしてまとめてみると、いずれの行事も「集まる」というのが共通の目的と言えるのではないでしょうか。

いったん途絶え、復活した行事の中には、帰省した出身者が参加することを目的の一つに掲げるものもありました。行事の中に子どもが担う役割が多いのも、付き添う親が集まることを目指しているのかもしれません。

<播州人3号>
1997年入社。実家近くの祖父母宅は昭和の終わりまで、まきをくべて湯を沸かす「五右衛門風呂」でした。何度か沸かしたことがありましたが、火の調整が難しく、熱すぎたり、ぬるすぎたり。なんとめんどうくさい、と感じましたが、今考えると、かえってぜいたくな時間かもしれませんね。

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