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プログラムのない演奏会―。街中に急増するストリートピアノ

駅などの公共スペースに置かれるピアノが増えています。「ストリートピアノ」や「まちかどピアノ」と呼ばれ、だれでも自由に奏でることができます。懐かしのメロディーに足を止めたり、試しに鍵盤に触れてみたりと、見ず知らずの人同士をつなぎます。そんな街角の舞台を播州人3号が紹介します。

誰でも演奏、街角コンサート♪
ストリートピアノ 一曲どうぞ
神戸ハーバーランド地下

 街角に置かれた1台のピアノ。道行く人がふらりと立ち寄り、おもむろにポロンと一曲。自然と生まれる人垣。温かい拍手。ああ、なんておしゃれなの。国内でも広がりを見せるそんな「ストリートピアノ」が、神戸ハーバーランドの地下街「デュオこうべ」に登場した。何を隠そう、われわれ神戸新聞社員の通勤路である。よっしゃ、行ってみてけつかろ。
 平日午後3時。人通りはそこそこあるが、「ご自由にお弾きください」と書かれたピアノの周辺は無人。マジで弾くんすか。未練がましく目で訴えてくる田中宏樹記者(31)。そうだ、マジで弾くんだ。うなずく私たち(やじ馬)。
 そして地下街に響きわたるベートーベン作曲「悲愴(ひそう)」。3歳から20歳までピアノをたしなんだ田中記者の見事な演奏に、行き交う人が続々と足を止める。これだよ、これ!
 「すてき。聴きほれたわ」と女性たち。演奏を終えた田中記者も「最初は緊張したけど、集まってくれた人たちの前で弾くのは気持ち良かった」とご満悦だ。空間が広く、音が大きく響くのも、ピアニストとして評価したいポイントだという。
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 ストリートピアノは欧州などで盛んに設置されており、最近はNHKのBS番組「空港ピアノ・駅ピアノ」でもおなじみだ。国内では2011年に鹿児島県内の商店街での常設が最初とみられ、現在は九州や関東、北海道など計30~40カ所に上るという。
 デュオこうべには、神戸市の市街地整備課が、にぎわい創出の一環として1月26日から今月11日まで試験的に設置。市民の反応や管理状況などを確認した上で、3月からの常設を目指す。
 ストリートピアノに関するウェブサイトを運営している山本耕平さん(42)=札幌市=は「ジャズが盛んな神戸にぴったりの試みで、大いに応援したい。私もぜひ行ってみたいです」と声を弾ませる。
 はい、原稿終わり。どれ、私も帰りに一曲…。

(2019年2月4日夕刊より)

最も古い「ストリートピアノ」の記事がこちらでした。
お試しに置いたピアノは市民に親しまれ、常設が決まります。
その後、どんどん台数が増えています。

新聞記事らしからぬ文章に興味を持たれた方はこちらもどうぞ

誰でも自由にピアノ演奏
海岸線全駅に設置
記念イベントあすから開催

 誰でも自由に弾けるストリートピアノが神戸市営地下鉄海岸線の全10駅に置かれたことを記念するイベントが2日、始まる。インスタグラムやスタンプラリーで神戸ビーフなど地元にちなんだ賞品が当たる。6月30日まで。
 神戸市によると、2月に和田岬駅にピアノが設置され、海岸線全駅に行き渡った。市内では30カ所目。路線全駅へのピアノの設置は全国で初めてだという。
 イベントは市が企画し、参加するには、インスタグラムで市交通局の公式アカウントをフォロー。海岸線のストリートピアノの写真や演奏動画を「#神戸ピアノ海岸線」というハッシュタグを付けて投稿すれば、抽選で10人に神戸タータングッズの詰め合わせ(5千円相当)が贈られる。
 スタンプラリーは、駅で集めたスタンプの数に応じて抽選で賞品をもらえる。全10駅を巡ると神戸ビーフ(1万円相当、抽選で5人)の、5駅以上で洋菓子(5千円相当、同20人)のコースに申し込める。
 当選者には、インスタグラムはダイレクトメッセージで、スタンプラリーは賞品発送をもって知らせる。市の担当者は「普段はピアノに興味がない人が音楽に触れる機会になれば」とアピールしている。
 海岸線各駅のピアノを弾けるのは午前7時~午後8時。新型コロナウイルス対策で、各ピアノ前にはアルコール消毒液を置いている。

(2022年4月1日付朝刊より)

神戸市内に3年で30台。
「ストリートピアノの街」を名乗れるほどの勢いです。
中にはこんな豪華なピアノも登場しています。

ホールで活躍した名器「フルコン」2台
至高のピアノ 街角で再出発
神戸・旧居留地など、誰でも演奏可
アマ愛好家「音の響きが別格」

 玄人はだしの演奏が始まると、道行く人も足を止める神戸市の「ストリートピアノ」。2019年から駅や商業施設で設置が始まり、現在28台まで増えたが、この中には長年コンサートホールで活躍したフルコンサートグランドピアノ(フルコン)が2台ある。芸術品にも例えられる楽器をその手で奏でようと、愛好家らが訪れている。
 フルコンは、メーカーが厳選した素材と熟練の職人技で1台ずつ作り上げる最高級のピアノで、代表格のスタインウェイ「D―274」の価格は新品で2千万円以上。ピアノの音質や音量は響板の大きさや弦の長さが関係し、奥行きが270センチ以上あるフルコンはフルオーケストラにも負けない存在感を発揮する。
 神戸市がストリートピアノとして設置する2台は、1971年製のヤマハ「CF」と、73年製のスタインウェイ「D―274」。神戸文化ホール(同市中央区)などで長年使われてきたが、18年のピアノ更新に伴い、いずれも現役を引退した。
 ジャズやフルートとゆかりが深い同市は19年、「音楽のまち」にふさわしい取り組みとして、ストリートピアノ事業を始めた。大半は幼稚園や小学校の統廃合で余った小型のアップライトピアノを充てたが、役目を終えたフルコン2台も「ストリートピアノの目玉に」と白羽の矢が立った。
 フルコンはフレームや音量が段違いに大きいため、条件に合う場所を慎重に検討し、CFは19年10月、ショッピングセンター「エコール・リラ」(同市北区藤原台中町1)へ。D―274は20年6月、旧居留地にある三井住友銀行神戸営業部(同市中央区浪花町)に置いた(現在修理中で近く利用再開予定)。
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 エコール・リラのCFを演奏していた同市北区のピアノ講師(34)は「自宅では近所迷惑にならないよう電子ピアノの音量を下げて弾くけど、ここはドーンと音が響いて気持ちいい」と話す。
 目の前に高級ブランド店が立ち並ぶ旧居留地のD―274も人気だ。「めったに触れないピアノ。弾いたときの感覚や音の響きが普通のピアノと全く違う」と、同市中央区の会社員(37)。ピアノに置かれた自由筆記のノートには「人生で初めてスタインウェイを弾きました」という書き込みもあった。
 スタインウェイ・ジャパン(東京)の担当者は「スタインウェイのフルコンを、ストリートピアノとして使う例はほとんど聞いたことがない」と驚きを隠さない。一方、ヤマハ(静岡県浜松市)によると、佐賀県や山形県にはCFやCF3のストリートピアノがあるといい、担当者は「高根の花のフルコンを身近に感じ、弾くことは、誰にとっても貴重な経験になるはず。楽器の前に座って景色を眺めるだけでもピアニスト気分を味わえるのでは」とコメントした。
 フルコンは非常に繊細な楽器で、湿度や温度を24時間一定に保つピアノ庫で保管することが必要とされる。2台はいずれも屋根付きの屋外に設置されており、ピアノにとっては過酷な環境。市は調律の頻度を増やすなど、重点的にメンテナンスしているという。新型コロナウイルスの感染対策のため、使用前の手指の消毒なども呼び掛けている。

(2021年10月4日夕刊より)

ピアノといえば黒が大半ですが、街中のストリートピアノにはカラフルなものもあります。

けやき台に三田市内初ストリートピアノ
「三田愛」込めた 1台を奏でて
市内育ちのシンガー・ソングライター発案「音楽を通し人と人つながる場に」

 公共の場で誰もが自由に弾くことができる「ストリートピアノ」の三田市内第1号が今月、イオン三田ウッディタウン店(けやき台1)に設置された。地元の高校生が装飾を施した「三田愛」あふれる1台。今後、音楽を通して人と人がつながる場所をつくっていく。
 ピアノが設置されたのは、同店2番街1階の休憩スペース。午前10時から午後4時まで自由に演奏できる。
 地元に芸術文化を根付かせたいと、三田育ちのシンガー・ソングライター、ミチコさん(37)が発案。昨年、賛同した地域住民らと実行委員会「三田と音楽と人をつなぐ三音人(さんおんとー)プロジェクト」を立ち上げ、企画してきた。
 ピアノは市外に転居する住民から寄付されたものを活用した。昨年12月には有馬、北摂三田、三田松聖の3高校の美術部員が塗装に参加。白をベースに市のマスコットキャラクター「キッピー」や三田の山々、有馬富士公園など、親しみの持てる絵を描いた。
 地域全体の財産にするため、維持管理費はインターネットで資金を募る「クラウドファンディング」を活用。1カ月で目標の50万円を上回る58万6180円が集まった。
 ピアノは昨年末に完成したが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、設置を延期していた。まん延防止等重点措置が解除され、今月1日にようやく登場すると、初日から子どももお年寄りも演奏を楽しんだ。男子高校生の演奏を聴いていた高齢女性が中島みゆきさんの「糸」をリクエストするなど、新たな交流が生まれたという。
 ミチコさんは「(ストリートピアノが)やっと三田にできた」と感慨深げ。「ここで音楽が好きになる人、友達ができる人がいればうれしい」と話した。
 実行委は5月22日にお披露目イベントを企画している。また2台目をサンフラワーショッピングセンター(弥生が丘1)に設置する計画も進めている。

(2022年4月13日付朝刊より)

「アスピア明石」に新名物♪
見ても楽しい「アスピアノ」
学校の備品 カラフルに再生

 アスピア明石(明石市東仲ノ町)に新たなにぎわいをと、学校の備品だったピアノをリメークした「アスピアノ」が誕生した。ピアノには演奏を楽しむ子どもや動物が描かれ、世界に一つだけのカラフルなピアノに生まれ変わった。26日にお披露目のコンサートを開催するほか、将来は誰でも自由に演奏ができるストリートピアノとして開放する予定。
 ピアノは、かつて市内の小中学校や市立高齢者大学校「あかねが丘学園」で使われていた。アスピア明石を経営する市の第三セクター「明石地域振興開発」がこれを引き取り、市内在住でイラストレーターや羊毛フェルト作家として活躍する小野千賀子さんがデザインを手掛けた。
 「弾いて楽しい、見て楽しい」をコンセプトに、ピアノは黒色からピンク色に塗り替えられ、歌や踊りを楽しむ動物たちが約1カ月がかりで描かれた。アスピア明石のキャラクター「あすぴょん」や、疫病退散を願ってアマビエを隠し絵で登場させるなど遊び心もあふれる。
 新型コロナウイルス感染の収束状況を見ながら、買い物客らが自由に弾けるストリートピアノとして館内に設置する予定。アスピア明石は「音楽やアートを通して人と人がつながる機会になればうれしい」と期待を込める。

(2021年6月24日付朝刊より)

置かれる場所もさまざまです。
世界的に活躍する建築家が手掛けた建物なら響きも格別でしょう。

淡路市 夢舞台にストリートピアノ
開業20周年 展望テラス1階に設置
パソナ社員演奏しお披露目

 淡路市夢舞台の淡路夢舞台展望テラス1階に6日、誰でも演奏できるストリートピアノが設置された。世界的建築家・安藤忠雄さんが設計した建物で、音色を響かせることができる。あなたも1曲、どうですか―。
 淡路夢舞台は、国際会議場やホテル、植物館などが集まる複合施設。今年3月に開業20周年を迎えたことに合わせ、運営する県の第三セクター「株式会社夢舞台」がピアノを購入した。
 最近は各地でストリートピアノが設置されて人気を集めており、にぎわいや交流を生み出す狙いがある。設置は新型コロナウイルスの影響で遅らせ、7月6日の「ピアノの日」に合わせた。
 お披露目では、パソナグループ・ミュージック社員の秦有里奈さん(23)がオリジナル曲「いわや猫」を演奏。オーボエとも音色を重ねた。半屋外の空間に旋律が響き渡ると、足を止めて聞き入る人もいた。
 ピアノは1970年代に製造され、淡路島内で使用されていたもので、「夢ピアノ」と名付けられた。演奏を終えた秦さんは「音がしっかりと出て弾きやすかった。天井が高いので、よく響く感じがした」と話していた。
 午前10時~午後5時。利用者にはマスク着用や手指消毒を呼び掛けている。

(2020年7月7日付朝刊より)

過去記事の「ストリートピアノ」を数えると、兵庫県内で50台ほど設置されているようです。
駅や空港、市役所のほか、JAの直売所など置かれる場所もさまざまです。
神戸や姫路などの都市部だけでなく、日本海側にあるJR香住駅待合室や淡路島にもあります。
これだけ台数が増えれば、こんなチャレンジャーが出るのも当然です。

ピアニストが限界挑戦
1日に何台のストリートピアノ弾ける?
作曲家で大阪音大講師 次郎丸さん
自作の曲「アマビエ」市内巡り21台達成

 1人で1日に何台のストリートピアノを弾けるのか? 昨年末、そんな検証に挑んだ男性ピアニストがいた。舞台はストリートピアノの設置数が全国一とされる神戸。楽曲は男性が作詞作曲した「アマビエ」だ。新型コロナウイルスが収束するよう願いを込めた優しい音色が、市内各地に響いた。
 挑戦したのは、作曲家で大阪音大講師の次郎丸(じろうまる)智希さん(42)=豊中市。昨年4~5月に緊急事態宣言が出て以降、演奏の仕事がなくなって家に引きこもるようになり、不安が増した。
 前に進むきっかけにと作った曲が、疫病から人々を守る妖怪の名を取った「アマビエ」。安らぎや癒やしを感じられるよう、ゆったりとした曲調にした。ソーシャルディスタンスが求められる中、歌詞には「離れていても健康であるように。いつか手を取り合えるように」との意味を込めた。
 「2020年は大変な年だった。でも、健康で過ごせたことに感謝しよう」。そんな思いで、昨年の大みそか、神戸でストリートピアノを弾こうと決めた。
 ルールは車を使わず、徒歩や電車で移動すること。午前7時半すぎ、市営地下鉄三宮・花時計前駅(中央区)からスタート。約15時間かけて各地を回り、神戸空港(中央区)のピアノでフィニッシュした。演奏したのは21台。市内に置かれた全25台(当時)の8割を制覇したことになる。
 「非公式だけど、日本記録達成です。寒かった」と次郎丸さん。「2021年は演奏できる日常が少しでも戻ってほしい。今後もコロナに負けない思いを込めた曲を作りたい」と話し、再挑戦も予定している。
 大みそかの動画は、投稿サイトのユーチューブで「検証 人は一日に何台のストリートピアノを弾くことができるか」と題して公開中。

(2021年1月29日付朝刊より)

「食べ歩き」ならぬ「弾き歩き」ですね。
弾く人と聞く人。ピアノを通じた出会いも生まれます。
「日々小論」というコラムで編集委員が取り上げていました。

 「泥だらけの自分を受け止めてもらっている」。先日取材した明石市の多久島晶子さん(49)から届いた手紙には、ストリートピアノで出会った人々への感謝がつづられていた。
 幼いころから「他人には当たり前のことが自分にはそうではなく、否定され続けてきた」という。父親に疎まれていると感じ、「女性」と言われることに激しい嫌悪感もあった。心を病み、自殺未遂を繰り返し、声を失っていた時期もある。足が不自由になり、車いすの自らを「マイノリティーの塊」と語る。
 大切な居場所の一つが、地元や神戸のストリートピアノだ。大学でピアノを専攻した腕前でクラシックの曲を弾くと、涙しながら聴いている人、お礼にとイチゴをくれた人、コンビニに走りピザまんを買ってきてくれた人もいた。大事に家に持ち帰り、母親と半分ずつ味わった。
 ある日は障害者手帳が見当たらず、バスで運賃の支払いに手間取っていると、「駅で弾いている人ね」と同じ停留所で降りる乗客が払ってくれた。「どうやって返せばいいですか」と尋ねると「またピアノを聴かせて」と言って、去ったという。
 ここ数年、全国で急速に広がったストリートピアノ。コンサートホールと異なり、開放的な空間で演奏レベルに関係なく音楽を楽しめ、いい光景だなと見てきたが、弾き手と聴衆にそんな交流が育まれていたとは。
 街角に中古のピアノを一台置く。ただそれだけのことが生み出す効果と、そこに集う人々にとっての存在の大きさに、今更ながら驚いている。
 「自分も生きてていいんだと思える場所」と多久島さん。どうかストリートピアノがブームで終わらず、この先もずっと続きますように。

(2022年5月16日付朝刊より)

<播州人3号>
1997年入社。会社近くにストリートピアノが置かれています。通勤途中、クラシックの名曲やジャズ風にアレンジした歌謡曲など熱のこもった演奏に出合えます。先日は深夜に近い時間帯に、人もまばらな地下街で高齢の男性が古い映画のテーマ曲を演奏していました。「なんでこんな時間なのか」や「思い出の映画だったのか」など弾き手のことを想像しながらしっとりとしたメロディーに聞き入りました。

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