TDS、USJの紹介記事が…! 唯一無二、鬼才の〝作品〟3選
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TDS、USJの紹介記事が…! 唯一無二、鬼才の〝作品〟3選

こんにちは、シャープです。

先日、この「うっとこ兵庫」のネタ探しがてら、「【クイズ】名物記者のおもろいコメント3選」で取り上げた黒川裕生記者(2003年入社)と雑談していたときのこと。

「ぶっ飛ぶような過去記事、ありませんかね」

私の乱暴な問い掛けに対し、黒川記者はしばらく考え、「めちゃめちゃびびった記事はあるかなあ」と、一つ挙げてくれました。2000年入社の文化部、田中真治記者が、東京ディズニーシー(千葉県浦安市、TDS)のオープンに合わせて書いた、施設紹介の記事です。

ここで、田中記者について簡単に紹介しますと、入社前は、大学院で美術史学を専攻。ハンガリー語に堪能で、学術的な知識から日常のトリビアまで、幅広い見識を備えています。

一緒に働いたことがある記者は「ボソボソとしゃべる感じで、聞き取れないこともあるが、どんな質問をしても的確に答えてくれる」と証言します。

さて、そんな田中記者が書いたTDSの施設紹介記事ですが、このたぐいの話題は、記者が目玉スポットを巡り、アトラクションを体験して、ルポタッチでまとめるのが定番とされています。工夫の余地がそれほどなさそうな素材を、当時、入社2年目の田中記者はどう料理したのか――。

記事のデータベースを使い、探し出しました。


ディズニーシー


紙面の半分ほどを占める大きな記事です。文字がつぶれていて分かりづらいですが、ざっと見渡しただけでも、黒川記者が「めちゃめちゃびびった」理由が分かりました。

まず、一般の記事に必ず付いている第一段落の「リード(前文)」がないのです。リードには、記事の概要を分かりやすく読者に示すとともに、興味・関心を引きつけて、2段落目以降の「本文」へと読み進めてもらう大切な役割があります。

そのリードをばっさり削っただけでなく、本文についても、通常ありえない文体で展開されています。「鹿之助・熊之介」というコンビによる掛け合いが唐突に始まり、最後まで通しているのです。しかも、その内容が、当時の世相を踏まえた機知に富み、漫才の台本としてみても、素人のレベルを超えた仕上がり。

全文を掲載しますので、やや長めですが、田中ワールドをじっくりとご堪能ください。


行ってびっくり!! ディズニーシー

(2001年9月8日付夕刊より)

ディズニーシー

▼7つの顔のテーマパーク
鹿・熊 鹿之助・熊之介でーす
鹿 もう九月だね
熊 早いねー
鹿 九月といえば海だね
熊 遅すぎるよ!
鹿 いやディズニーシーの話
熊 紛らわしいな。十年がかりの大規模テーマパークなんだろ
鹿 淡路島の千分の一
熊 比較の対象が間違ってるよ
鹿 ハイライト九千万個分
熊 それも間違ってるだろ。七つのテーマポートがあってだな
鹿 港々にイイ女が
熊 家族やカップルが来るとこだって
鹿 JRの駅からはモノレールで行くんだね
熊 ああ、「ディズニーリゾートライン」な
鹿 なんとつり革も窓もミッキー形
熊 子どもは大喜び
鹿 車輪もミッキー形
熊 走れないよ、それじゃ。モノレールじゃなかったのかよ
鹿 車掌もミッキー
熊 ほんとかよ
鹿 安川
熊 説教されんのかよ! いいから園内を紹介するぞ!!
▼ポートディスカバリー/ストームライダー/風雨ですっかり濡れネズミ
熊 ここは近未来的の港。銀色に輝いてるぞ
鹿 まさにシルバー向け
熊 だから違うって。海に浮かんでる円形の乗り物は…
鹿 ベーグル
熊 パンじゃねえか、ビークルだよ。急発進、急回転、急バックと予想外の動きに驚き
鹿 思わず心臓も急停止
熊 バカいってんじゃないよ。次、「ストームライダー」な。気象研究所を襲う巨大な嵐(あらし)は
鹿 ジャニーズ所属
熊 違うだろ。雨や風がリアルに体感できて
鹿 濡(ぬ)れネズミに
熊 いいよ、無理に落とさなくて
▼ミステリアスアイランド/センター・オブ・アース/赤い火を噴くあの山へ
熊 港のテーマは一八七〇年代のSF。火山湖に停泊するのはヴェルヌの作品からとった…
鹿 蟹(かに)工船
熊 プロレタリア文学じゃねぇか。潜水艦ノーチラス、「海底二万里」
鹿 海江田万里?
熊 マネー評論聞いてどうする
鹿 あっ、色鮮やかな生き物だ、深海なのに
熊 もっと素直に楽しめよ。うぉっ、巨大イカが襲ってくるぞ!
鹿 そうはイカんざき
熊 参院選は終わったって。次は「センター…
鹿 赤星
熊 阪神の選手じゃねぇか。「センター・オブ・ジ・アース」だよ
鹿 地底を車で走行
熊 不思議な発光生物やキノコの森が。と、火山の爆発で猛ダッシュ!
鹿 さすが盗塁王
熊 だから赤星から離れろっつってんだろ
▼アメリカンウォーターフロント/エレクトリックレールウェイ
熊 港に船が停泊してるぞ。デカいなー
鹿 名前は光進丸
熊 加山雄三だよ、それじゃ。コロンビア号だろ
鹿 太平洋ひとりぼっち
熊 それはマーメイド号。何で寂しくなるんだよ
鹿 幸せだなあ
熊 加山に戻ってるよ
鹿 やっぱり船は酔いやすいね。気持ち悪くなってきた
熊 お前のは飲みすぎだよ! 船は動かなくて、バーになってるの
鹿 ゲロゲーロ、ゲロゲーロ!
熊 青空球児・好児のギャグを取るなよ!
鹿 気を取り直して電車で移動
熊 「エレクトリックレールウェイ」だな
鹿 どうやって運んできたのか、考えると夜も眠れない
熊 今度は三球・照代かよ。地下鉄じゃないだろ
▼メディテレーニアンハーバー/ウォーターカーニバル/イタリアの街を再現
鹿 海はいいよ
熊 いきなり森繁久弥みたいな言い方だな
鹿 街はイタリア風だし
熊 運河にゴンドラまであるんだから、ほんとベネチアそっくりだよ
鹿 そうそう、歌いながら船こいでててね
熊 どんな歌だよ
鹿 いーのちぃみーじぃかしーぃ
熊 やっぱり森繁かよ。「ゴンドラの唄」なんてだれも知らないよ
鹿 毎日パレードもやってるよ
熊 ああ、「ウォーター…
鹿 「ハンニバル」
熊 なんで怖がらせるんだよ。カーニバルだろ。ミッキーマウスやドナルドダックが大ハッスル
鹿 ネズミにアヒル、まさに動物たちの謝肉祭
熊 動物って言うなよ
鹿 じゃあ、「ドキ! 獣たちの水泳大会」
熊 よけい悪いよ
鹿 ポロリもあるよ
熊 見たくねー
▼アラビアン・コースト/マジックランプシアター/飛び出すアラジン魔人
熊 アラビアってエキゾチックだよな
鹿 さしづめここは東京砂漠
熊 ムードを壊すなよ
鹿 歌はクールファイブ
熊 歌はいいから。アトラクションは「シンドバッド・セブンボヤッジ」
鹿 さぞいい気分なんだろうね
熊 セブイレブンじゃないよ。ウツボ女とか、怒った巨人とかヘンなのがいるんだよ
鹿 「マジックランプシアター」は楽しみだねえ
熊 やけに乗り気だな。メガネをかけると、映画「アラジン」の魔人ジーニーが飛び出してくる!
鹿 いわゆる3K
熊 3Dだよ!
鹿 デカい・だけの・でくのぼう
熊 そんな略じゃないよ!
     ◇
鹿 「ロストリバーデルタ」もあるよね
熊 インディの大冒険な。若さの泉を求めて
鹿 泉の広場へ
熊 ハギヤ整形かよ
鹿 「マーメイドラグーン」もあるよ
熊 ミュージカルあり、乗り物あり、息つくヒマも与えない
鹿 海中だけに
熊 いい加減にしなさい!
鹿・熊 ありがとうございましたー


……いかがだったでしょうか。

これが、これでも、新聞記事なのです。

どういう発想で、何を考えて執筆したのか、田中記者に尋ねると、「取りあえず書いてみたら、そのままの形で載ったね」とさらり。ちなみに、「鹿之助・熊之介」は架空のコンビだそうですが、名前の由来を聞くと、まさにぶっ飛ぶような答えが返ってきました。

「もともとは『馬之助・鹿之介』の掛け合いで、馬鹿の字が延々と連なることを期待したんだけど、(原稿をチェックする)デスクによって『熊之介』に変えられてしまって」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

常人離れした世界観にはまってしまった私は、田中記者が書いた他の記事についても、データベースであさってみることに。すると、ディズニーシーの記事からさかのぼること5カ月前、大阪市にオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の特集が出てきました。

「まさか、ひょっとして…」

予想は、当たりました。アトラクションの紹介の中に、明らかに異質なコマが一つ。筆者を確認すると、やはり田中記者でした。この記事がきっかけとなって、1本目で紹介したディズニーシーでの漫才記事につながった――と想像できるような内容です。

見出しは「ぬれるで、しかし」


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人気のボートツアーアトラクション「ジョーズ」について、関西人にはなじみ深い〝あの人〟の独特の言い回しと趣味を存分に混ぜ込んで紹介しています。短めの記事ですので、勢いよく、一息で読み切ってください。


思わずどっきりUSJ

(2001年4月7日付夕刊より)

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▼ジョーズ/ぬれるで、しかし
 ボートは男のロマンや、正味の話。やったるで! おっと、いきなり席、ビチョビチョやないけ。おこるでしかし。ジョーズゆうたかて、あんなもんただのサメや。ほっぺたのへこんだ宍戸ジョーが出てきよったら怖いけどな。おう、そこの新劇風の説明しとる係員、早よ出さんかい。かまさんかい。なんや船が沈んどるやて。イヤなテーマも聞こえてきよったぞ。あっ、出よったで、ジョーズや。わっ、跳ねよった。靴までビショぬれやがな。このド素人!
 カンカンカーンと行かんかい。ライフルでいてもうたらんかい。あとちょっとや。第四コーナーぐるっと回ったらしまいや。まくらんかい。と、何止まってんねん。エンジントラブルやと。おいおい燃料燃えとるぞ。爆発やがな。びっくりするがな。メガネも落ちたがな。以上、横山だ。まいど!

繰り返しますが、これも、田中記者が入社2年目の時に書いた記事です。

人によって差はありますが、1年目で取材、執筆に一通り慣れて、2年目で少しずつ独自色を模索する――というのが、一般的な記者が歩む道です。

田中記者は、早熟の極み。この段階で既に、行き着くところまで行き着き、独自色どころか、新聞の限界点すらも突き破ってしまっているように思えます。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

最後の3本目は、打って変わって、文学的な一面が色濃く出ている記事です。

日本全国、時には海外を記者が訪れ、体験記をまとめる「旅」のコーナーなのですが、先述した、第1段落のリード(前文)が特に秀逸です。

田中記者が向かった先は、静岡。取りあえず、リードのみを切り出してみましたので、ご一読ください。


 君も少し見聞を広めたまえ、と渡された案内状には「静岡」と書いてあるので、ははあ、お茶ですかと言うと、だから君は物を知らないと、哀れむような目をされたので、どうせおいらの頭の静岡は緑茶でできてるんだいと、昔の川島なお美のようなセリフを残し新幹線に乗ると、外は雨だった。


「一つの文はなるべく短く、簡潔に」という新聞業界の定説を一顧だにせず、読点でつなぎきった叙情的な一文でまとめています。私のような凡人には思いつきもしないし、思いついたとしても表現できない書きぶりを、黒川記者は「川端康成と森見登美彦を合わせたよう」と評しています。

それでは、改めて記事の全文を紹介しましょう。


<旅>静岡 「心の美」表す花と芸術

(2005年9月22日付夕刊より)

静岡

 君も少し見聞を広めたまえ、と渡された案内状には「静岡」と書いてあるので、ははあ、お茶ですかと言うと、だから君は物を知らないと、哀れむような目をされたので、どうせおいらの頭の静岡は緑茶でできてるんだいと、昔の川島なお美のようなセリフを残し新幹線に乗ると、外は雨だった。
■買い物天国
 着いた所は御殿場で、車に揺られること十分、富士のすそ野に、地上の驚異が出現した。
 「御殿場プレミアム・アウトレット」は、敷地三十五万平方メートルに百数十ものブランド・ショップが並び、日本一いや東洋一の規模だそう。アルマーニもあればナイキもあり、雨も気にせず、ぐるぐる回れて、お得な値札に心うきうき。だが、お前、そんなに金あるの、と一角のATMから声が聞こえて腰がわなわな。
 日本各地の方言とアジア各国の言葉が飛び交うにぎわいを後に、雨上がりの空の下、向かうは、秩父宮記念公園。対照的な静けさの中、ヒノキ林が作る幻想的な風景を抜けると、きれいな山野草が咲いている。
 あの黄色いのがオミナエシ、この白いのはオトコエシで、ピンクはサルスベリ。なにせ植物には縁がないもので、勉強になることばかり。感謝の念を込め、登山服姿で富士山を望む秩父宮殿下の銅像に頭を下げた。
■緑とアート
 こうなっては、御殿場の南、長泉町の「クレマチスの丘」にも足を延ばさねば。
 クレマチスは、キンポウゲ科の「つる性植物の女王」で、同町は苗木の生産が日本一との豆知識を教わって、広大な庭園を歩くと、そこここに色とりどりのクレマチスが。
 イタリアの現代彫刻家ヴァンジの作品をたたえるかのように、名花ジャックマニーが紫の、アルバラグジュリアンスが白い花びらを広げている風景は、自然と芸術のコラボレーション。「心の美」というクレマチスの花言葉が、また、心憎いではないですか。
 さらにここには、もう一つ日本一、いや世界一のものがありました。戦後フランスを代表するベルナール・ビュフェの美術館。大戦で荒廃した虚無感を表現した画家の油彩や版画が、二千点以上もあるなんて!
 さすが日本一の富士のおひざ元、これほど多くのナンバーワンがあるとは侮り難し、静岡。頭に描く日本地図の静岡県が、ぐんと大きさを増した。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

田中記者は現在、文化の話題を中心に原稿を書きつつ、淡路島のタマネギ農家らが愛用する「農民車」の話題など、ユニークな切り口の記事も出しています。今回紹介した3本のような、〝作品〟とも思える衝撃的な記事は少なくなっているように感じますが、それでも、「これぞ田中節」というような表現は健在です。

神戸新聞では、紙面でもネットでも、大半の記事で、記者の署名が掲載されています。「田中真治」の名前を見つけたら、ぜひ一度、二度と読み返してみてください。田中記者ならではの言い回し、言葉遊びなどが、きっと見つかるはずです。


<シャープ>2006年入社。田中真治記者とは、17~19年の連載企画「新五国風土記」で同じ取材チームとなり、兵庫県内各地を巡った。田中記者の取材、執筆姿勢から「定型を崩そう、崩そうとするだけでは、究極の独自性は出ない」ということを学ぶ。実践はできていない。


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